子供劇・児童劇というイメージを完全に覆す劇団「ラ・バラッカ」①〜乳幼児期こそ素晴らしい芸術鑑賞者〜
「座・高円寺」でこども演劇を3歳児と観劇してきました!②〜言葉や説明なしに子どもが共感できる様子に感激しました〜
子供劇・児童劇というイメージを完全に覆す劇団「ラ・バラッカ」②〜子どもの芸術・文化の領域にも深く関係するボローニャ方式〜
イタリア北東部に位置する、古都ボローニャ。約40万人が暮らすこの街の中心部には、ヨーロッパ最古と言われる1088年設立のボローニャ大学があります。ダンテやガリレオ・ガリレイが学んだこの大学には、今日でもイタリア国内外から若い学生が集まり、活気に溢れています。ボロネーゼ発祥の地としても知られ、イタリア屈指の食の街でもあります。
「乳幼児期こそ素晴らしい芸術鑑賞者である」
そしてこの街には、Early Years(乳幼児期)の子どもたちのための劇を世界的に牽引している劇団があります。その名は、劇団「ラ・バラッカ」。1976年にボローニャで誕生した0歳から6歳という小さな子どもたちを主な鑑賞者とする、歴史ある子ども劇団です。乳幼児期こそ素晴らしい芸術鑑賞者であるという考えのもと、質の高い優れた演目を上演し続けています。
ラ・バラッカを取材するために訪れた場所は、ボローニャ駅から徒歩すぐのテストーニ・ラガッツィ劇場です。この劇場はラ・バラッカの本拠点に当たりますが、この建物は市の所有物。使われなくなった市の劇場をボローニャ市から提供され、ラ・バラッカが現在活用しているのです。
「五感全体が刺激される、強烈なアート体験」
劇場を訪れた日は平日でしたが、次から次へと子どもたちの来場が絶えません。というのも、ボローニャ市内の保育園や小学校から、クラス単位で子どもたちが観劇にやってくるのです。教員に引率された子どもたちが、順々に客席に着いて、開演を待っています。日本では、未就学の子どもたちの観劇機会そのものが多くはないので、公共劇場に小さな子どもたちが沢山いる光景自体がまず新鮮に映りました。
未就学児を対象とした演劇とは、一体どのようなものだろう・・・。
演目が始まると、すぐに、さまざまな私の予測は裏切られます。決してこれは、“未就学児”のみが対象ではない、と。
俳優たちが、洗練されながらもダイナミックで力強い身体表現を行うことで生まれる光と影のコントラストや、劇中に使用されるさまざまな素材(私が初めて見た演目では、砂や藁がふんだんに舞台上で使用されていました)が生み出す音、それにより喚起される触覚的イメージ。五感全体が刺激される、強烈なアート体験であり、それは、前衛芸術と言えるような構成でした。
「子どもたちを一人の人間として対等に尊重している」
子ども対象であるということをすっかり忘れ、30代の私は、一観客としてラ・バラッカの世界に魅了され、心揺さぶられていました。この強烈な経験は、私がそれまでに漠然と抱いていた子供劇・児童劇、というイメージを完全に覆すものでした。子ども対象なら、“分かりやすく”そして、“飽きさせない”ようにしなければ、という考え方が浮かびがちですが、そこにはそうした態度が微塵もありません。観るものに数多くの問いを残し、余韻を生み出すような芸術体験だったからです。そこから、ラ・バラッカが子どもたちを一人の人間として対等に尊重していること、所謂“子ども扱い”をしていないことが伝わってきました。
当の幼児期の子どもたちも、真剣に劇中世界にのめり込んでいました。上演が終わると、子どもたちと俳優との対話の時間が設けられていましたが、幼児期の子どもたちから次々に、様々な質問やコメントが俳優に投げかけられています。子どもたちは演目に対して、一人ひとりさまざまな解釈を述べています。一つの正解があるようなものを拒み、多様な解釈を可能にするような演目として作り上げられているのだと感じました。子どもたちのことを深く理解していなければ、このような演目は作れないはずです。(つづく)
つくば世界子どもシアター2024
シアター・フォー・アーリー・イヤーズ(Theater for Early Years /略称TEY)と呼ばれる演劇があります。 0歳からの小さな子どもたちのために創られた演劇です。最高の芸術鑑賞者である子どもたちから学び、彼らのためにつくられるのがTEYです。つくば世界子どもシアターは、今秋TEYをリードする世界の劇団を招致します。また近い将来、つくばから新たなTEYが生まれることを目指します。
■日時 2024年
10月20日(日)14:00開演(13:30開場)
10月21日(月)10:00開演(9:30開場)
■会場 つくばカピオホール
詳しくは、「つくば世界子どもシアター2024」公式ウェブサイトよりご確認ください。