劇団ラ・バラッカのふたりに聞く「乳幼児のための演劇」とは③~つくば世界こどもシアター 2024~


劇団ラ・バラッカのふたりに聞く「乳幼児のための演劇」とは②~つくば世界こどもシアター 2024~

劇団ラ・バラッカのふたりに聞く「乳幼児のための演劇」とは④~つくば世界こどもシアター 2024~
2024年10月に開催された演劇イベント「つくば世界こどもシアター 2024」では、イタリアの劇団ラ・バラッカによる「さかさま」という言葉のないお芝居の上演後に、この演目の創作者でもあるカルロッタ・ズィニさんとアンドレア・ブゼッティさんのお二人を迎えてのトークイベント『ラ・バラッカの作品づくり~こども真ん中の芸術とまちづくり』を行いました。今回は、トークショーにゲストとしてお越しいただいた演出家で劇作家の佐藤信さんから質問を投げかけていただき、さらにラ・バラッカの魅力を解き明かしていきます。
沢辺(日伊櫻の会代表理事):カルロッタさんのお話から、ラ・バラッカという組織が、いかにボローニャの行政と連携し合いながら、乳幼児演劇の歴史を作り上げてきたのかが分かりました。
ラ・バラッカの二人からお話を頂きましたが、ここで本日のゲストから、質問を投げかけていただきたいと思います。 今日は、演出家で劇作家の佐藤信さんにお越しいただいています。ご存じの方も多いと思いますが、私の方から簡単に佐藤さんのプロフィールをご紹介させていただきます。
佐藤さんは、1960年代から小劇場の中心的な担い手として活動され、1970年から90年までの20年間は、黒テントの活動を通じて、全国120都市で移動公演を実施。その後、東南アジア諸国との演劇交流にも力を入れられ、さらに世田谷パブリックシアターの初代芸術監督、杉並区の座・高円寺の初代芸術監督を勤められました。 実は、アンドレアさんは、佐藤さんが芸術監督を務められていた座・高円寺に、15年前に初来日して公演しています。そうしたご縁もあって、本日登壇いただきました。
現在は、ご自身で「若葉町ウォーフ」という小劇場を横浜に設立され、 ドミトリーやスタジオを併設した民間劇場を運営されています。公共からの立場でも、また民間の立場でも、劇場運営に携わってこられました。では佐藤さん、よろしくお願いします。

佐藤さん:先ほどは、すばらしいショーを見せていただいて、 観客席の最年長の子供としてすごく楽しませていただきました。ありがとうございます。
時間がないので、少し絞って質問をしたいと思います。まず、アンドレアさんに伺います。最後におっしゃった、「子供をよく見る」、それから「子供の話を聞く」ということについてです。これらは、とても大事なことだと思います。 ただ、「子供を見る」ということは、ちょっと注意深くなれば誰でもできることのように思えますが、「子供の話を聞く」、子供たちの言いたいことを聞くというのは、とても難しいことのように思うんです。
私たちのように劇場でものを創る人間が、子供たちの話を聞くということを具体的にどのようにされているのか、そして、そのときにどういうことに注意されているのか聞きたいと思います。
アンドレア:素晴らしい質問をありがとうございます。いただいた質問に、2つの方向から答えさせて頂きたいと思います。
まず1つは、子供たち向けの芝居を演じている最中に、私がどのようなことに注意しながら演じているのかについて話させてください。

舞台上で演じているときは、もちろん、観ている子供たちに(役者である)自分を伝えようとしていますが、 それと同時に、私の耳を開いて、子供たちの反応を伺うようにしています。劇は、毎回同じことは決してありません。例えば、私がステージのある場所に立って、そこの近くにいる子供たちに向かって何かを語りかけるとします。そこにいる子供たちは集中すると思いますが、そこから少し遠くの子供たちは、集中力が欠けるかもしれません。そういう子供たちの様子を把握するために、演じながらも私の耳をしっかり子供たちに対して動かし続けます。子供たちの集中力が切れているなと思ったら、瞬間、その子供たちがいるあたりに行って注意を払ってあげたりします。
例えば、今日皆さんにお見せした演劇の中でも、子供たちにとって、ちょっとこのシーン長いな、というのがあったと思います。そういう時は、次のシーンに移るための動きをちょっと速くしたりするんです。あとは、私はすごく背が高くて大きくて、ひげも生えているので、中には怖がっちゃう子供もいるんですね。そういう時は、本当にゆっくり子供たちに近づいていって、彼・彼女らの高さまで下がって、自分から何かを伝えるんじゃなくて、彼・彼女らから何かを伝えてもらえるように、興味深い目で見つめます。 こうしたことが私にとって、「子供を見る」、「子供たちの話を聞く」ということです。

それからもう1つ、子供たちを見て、話を聞く方法があります。実は、私が小さい子供向けの芝居を創るときは、劇場ではなく、保育園に行って創ります。保育園に行く際に、まず基本となる演劇のアイディアを準備して行きます。最大3分から5分ぐらいです。そのアイディアを子供たちの前で披露します。終わった段階で、子供たちが私の世界に入ってくるように、手を引っ張ってあげるようなイメージで一緒に動いてもらうんです。そのとき、例えば手元にあるメジャーを使ったり、または音楽をちょっと変えてみたり、そういうことをしたりして、子供たちを私の世界に誘います。言葉を使わずに、私の生きている劇の世界に子供たちを連れてきて、一緒に生きる体験をしてもらいます。
一つの方法にはなりますが、このようにして私は劇場ではなく、保育園に行って子供たちと一緒に劇を創り上げていきます。子供たちの反応を見て、盗んで、劇場に持って帰ってもう一回自分で考え、組み立てていく。最初の日に子供たちの前で演じた5分が、子供たちからの反応を持ち帰った上で10分になる。翌日はその10分を演じて、また反応を見て・・・それをずっと繰り返して最終的な作品が完成します。こうした創作方法を採ろうと思うなら、当然ながら、子供たちと触れ合う時間に、しっかり子供の反応に耳を傾けることがとても大事になります。

佐藤さん:今日のショーを見て、1番良かったと思ったのは、劇が終わった後の話し合いの時間なんですよね。子供が、猫に名前を付けた時に(注釈:劇中に登場する猫の名前を質問した子供に対して、カルロッタ(ラ・バラッカ)が皆さん自身で名前を付けてと回答したところ、猫の名前を発表してくれる子供たちがいました。)思わず膝を叩いたんですけれども、それは多分、ラ・バラッカのアンドレアさん、カルロッタさんが、本当に子供との会話を楽しんでるということだと思います。

子供たちとの対話の時間を、ショーの中でとても必要なものだと思ってされている。一般的に、子供たちへのサービスとして質疑応答の時間を設ける場合はよくありますが、そうではなく、本当に自分たちに必要なものとして、子供たちと対話されているのを感じて、それがすごく印象的でした。
アンドレア:子供たちと意見を交換できる場は、とても大事だと思っています。声を聞くことによって、0歳から6歳までの乳幼児向けの演劇の質を、さらに高めていくことができると私は考えています。
イタリアには、”ピアチェーレ”という単語があります。”喜んでやります”というような意味ですね。子供たちに対して芝居をさせてもらうときは、この”ピアチェーレ”、心から楽しみ、心から喜んでやるよといった情熱がなければできません。私たちは、毎日こうした情熱を持って、子供たちの前で芝居をしています。
(つづく)
佐藤信 劇作家・演出家
1960年代からの小劇場運動の中心的な担い手のひとりとして、1970年から90年までの二十年間、黒色テントによる全国120都市におよぶ移動公演をおこなう。その他、オペラ、コンテンポラリーダンス、ショウ、糸操り人形芝居、日本舞踊、能など、幅広い分野の舞台演出にたずさわる。1980年代初頭からの東南アジア諸国を中心とした演劇交流、官民の劇場計画への積極的なかかわり、ワークショップ・演劇教育の推進者としても知られる。2017年6月、国内外の次世代劇場表現者との交流を目的に、港町横浜のダウンタウン若葉町に、小劇場、スタジオ、宿(ドミトリー)を併設したアートセンター「若葉町ウォーフ」を個人で立ちあげる。https://wharf-site.amebaownd.com/

劇団ラ・バラッカのふたりに聞く「乳幼児のための演劇」とは②~つくば世界こどもシアター 2024~

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