劇団ラ・バラッカのふたりに聞く「乳幼児のための演劇」とは①~つくば世界こどもシアター 2024~
沢辺(日伊櫻の会代表理事):本日は、『ラ・バラッカの作品づくり〜こども真ん中の芸術とまちづくり〜』にご来場いただきましてありがとうございます。 私は、日櫻の会の代表理事の沢辺です。モデレーターを務めます、どうぞよろしくお願いいたします。
今日は、先ほど上演された『さかさま』に出演したラ・バラッカのアンドレア・ブゼッティさんと、カルロッタ・ズィニさんに、はじめにお話をして頂きます。そのお話を受けて、ゲストの演出家・劇作家の佐藤信さん、また、明治学院大学教授・乳幼児演劇研究家の小林由利子さんにコメントをしていただきます。最後に、ご来場の皆さんから質問をしていただくという時間を設けています。よろしくお願いいたします。
早速ですが、まずラ・バラッカのアンドレア・ブゼッティさんにお話を伺います。アンドレアさんは、俳優・演出家・劇作家としてラ・バラッカで活躍しています。先ほど上演した『さかさま』では、作品の創作と演出、そして出演もされています。
アンドレアさんは、長年、乳幼児を対象とした演劇を創り続けてこられましたが、そもそも、乳幼児を対象にした作品って、どうやってつくっているの?という素朴な問いかけをしたいと思います。
本当に小さい子たちって、10分、20分だって集中することはとても大変なことだと思いますが、一体、どんなふうに作品づくりしているのでしょうか。それでは、アンドレアさん、よろしくお願いします。
アンドレア:私は、あまりしゃべることに慣れてないんです。先ほど、私が創った言葉を用いない劇を見ていただいたので、みなさんお分かりと思いますが、喋ることで何かを伝えるのではなくて、 喋らずに、みなさんの想像力を掻き立てて、何かを見せる、表現することに長けているんです。でも、少し今日はお話をしていこうと思います。話したいことは、非常にたくさんあるんですが、なるべくそれをコンパクトにまとめてお話をしていこうと思います。
まず、私たちの劇団ラ・バラッカは、1976年に創設されました。イタリアのボローニャ市で生まれました。イタリア国内では、おそらく1番最初に誕生した児童劇団です。私は1980年生まれなので、ラ・バラッカが生まれた後に私は生まれています。
76年が創設だったんですが、そこから10年後に信じられないことが起きたんです。教員(保育士)の方々、教育者とか教育学者の人たちが、ラ・バラッカが運営する劇場にやってきてドアをノックをしました。そして、彼らは私たちに次のように聞いたんです。「皆さんの劇団は、6歳以上の子供たちに向けた劇を作ってるんですよね?」と。 続けて、「それ以下の、例えば2歳とか3歳とか、そういった小さな子たち向けの劇はないんですか?」と聞いてきました。私の師匠であり、ラ・バラッカの創設者のロベルト・フラベッティは、その時は、「残念ながらやっていません」と回答しました。
そこから、私たちのある意味戦いみたいなものが始まったんです。 教育(保育)の現場に私たちは足を運んで、小さな子供たちの様子をまず学ぶことから始めました。教育の現場からも、私たちの劇団の方に来ていただいてディスカッションをしながら、小さい子供向けの劇はどのようにしたら作れるのかという研究を進めていきました。保育園の先生は、小さい子供たちと1日中一緒にいるわけなので、彼・彼女らが1番子供たちのことをよく知っています。その時点では、私たちはただの芸術家だったんです。
毎日のように、どのようにすれば子供たちをこの世界に引きつけることができるのかという研究、努力をし続けました。小さな子供というのはあまり長い間集中することができませんので、まず最初は簡単なもの、短いショーを作って、いかに彼らの注意力を自分たちに向けることができるのか、そういったものを繰り返し、試行錯誤しながら取り組んでいきました。
基本的に、教育者(保育士)の皆さんと一緒に取り組んでましたが、私たちからよく聞いていた質問が、「どのように子供たちとの関係性を持っていますか」「どのように接していますか」ということでした。
例えば、ショーを見てもらってる時も、子供たちがどのような反応をしているのかというのを、保育園の先生に聞いてみると、「今のはちょっと短かったよ」もしくは「長かったよ」とか。そういった密な対話を通して、子どもたち向けの芝居がやっと生まれてくるんです。あとは、「乳幼児たちに対してどのようなテーマの劇がいいのか」ということも、先生たちによく聞いていました。そういったことを続け、長い間の研究を通して、創作をしてきたわけです。
今日、皆さんに見ていただいた『さかさま』を、初めて子供たちに上演することになったとき、最初はすごく怖かったんです。子供たちはきっと分からないんじゃないか、 もしかしたら泣くかもしれない、見てる途中で飽きちゃうかもしれない…と。そういった怖さがありました。あとは、客席が暗くなった時、子供たちは怖がるんじゃないかと。
でも、そうした考えは間違いだったことが分かりました。子供たちというのは、全てを伝えることができるのだと上演を通して気がつきました。ただし、子供たちに伝えるための言語(表現方法)は、正しいものでなければ伝わりません。
一旦、ここで話すのを止めようと思います。そうでないと、5日間くらいずっと話し続けてしまうのでね(笑)。最後に、少しだけ、皆さんにお見せしたいものがあります。これをお見せすることによって、私にとって乳幼児向けの劇団、芝居、劇というものがどういうものであるかということをお伝えしようと思います。
あるものを鞄から取り出しましょう。これは、どこに行っても見つけることができるもので、 子供たちもすぐ見つけられるものです。でも、もしかしたら大人たちは、その使い方を1つしか知らないかもしれません。
(アンドレアが、カバンから、物差し用メジャーを取り出す。そのメジャーを使って、蝶々の形を作り、蝶は羽を動かして飛んでいくパフォーマンスをする。)
わかりますか?大人にとっては、これは、長さを測るものです。でも、実際はそれだけじゃないですよね。大人たちは、何か一つのものを見るときに、一つの側面から見て、たった一つの意味しか持たせないようにしてしまいます。 けれど、一つのものであっても、見方を変えることによって、いろいろな意味合いを持ってきますし、それは子供たちがごく自然にしていることです。
本当に最後になります。大切だと思っていることことを、二つお伝えします。一つ目は、私たちが子供のようになろうとする必要は全くなくて、そうではなく、子供をしっかり自分の目で見るということが大事です。そして二つ目は、子供たちが話してくることをしっかり聞いてあげるということです。グラッツェ!(ありがとうございました)
(つづく)
アンドレア・ブゼッティ(ラ・バラッカ 俳優・演出家・劇作家)
1980年生まれ。2001年よりラ・バラッカで俳優、演出家、劇作家として活動。乳幼児向けの作品を多く創作し、ラ・バラッカの国際化に大きく貢献する。手がけた作品は、国際児童演劇祭で数々受賞。主な受賞フェスティバルに、Tibafestival(最優秀芸術賞、ベオグラード、2013年)、Summer Puppet Festival(マリボル、2017年)、Festival Spettacolo Interesse(審査員賞、オストラヴァ、2019年)、FETEN-幼児と子供のためのヨーロッパ芸術祭(審査員賞、2022年)など。乳幼児演劇に関するマスタークラスでの講師も数々務め、2019年にはローズ・ブラッフォード大学(ロンドン)と共同でワークショップ「Early Years lab」を開発。