劇団ラ・バラッカのふたりに聞く「乳幼児のための演劇」とは②~つくば世界こどもシアター 2024~

劇団ラ・バラッカのふたりに聞く「乳幼児のための演劇」とは②~つくば世界こどもシアター 2024~


2024年10月に開催された演劇イベント「つくば世界こどもシアター 2024」は、日伊櫻の会主催でイタリアの劇団ラ・バラッカを招聘しました。「さかさま」という言葉のないお芝居を演じたのは、この演目の創作者でもあるカルロッタ・ズィニさんとアンドレア・ブゼッティさんのお二人でした。公演後にはお二人を迎えてのトークイベント『ラ・バラッカの作品づくり~こども真ん中の芸術とまちづくり』を行いました。今回は、俳優として舞台に立ち、また劇場のキュレーターや渉外としての役割を果たしているカルロッタさんのお話を紹介します。

沢辺(日伊櫻の会代表理事):次は、カルロッタ・ズィニさんにお話しいただきます。今回上演された『さかさま』では、出演及び作品創作を務めています。 同時に、彼女はキュレーター、プロジェクトコーディネーターとして、ラ・バラッカが運営しているボローニャのテストーニ劇場で開催される国際乳幼児演劇フェスティバルをオーガナイズしたり、そのほかにも、保育所や小学校など地域の教育機関との渉外担当として、コミュニティのキーパーソンを担っています。

カルロッタさんには、子供たちが演劇や文化・芸術に触れる環境を、地域でどう構築しているのかという、より包括的な視点でお話いただきたいと思います。

 

 

カルロッタ・ズィニ:まず、今日はこのような素晴らしい機会を作っていただいたことに心より感謝をしたいと思います。私はアンドレアと比べると、シャイなところがあるのですが、ラ・バラッカの歴史、ボローニャの行政との関わりについて少しお話しさせていただこうと思います。

ボローニャという町は、教育の観点からも、非常に歴史のある素晴らしい町です。私たちの劇団が生まれたのは1976年ですが、1970年代はまさにボローニャ市が、劇や劇団の育成に力を入れていこうと舵を切った年代でした。

そして、教育の考え方というのも変わってきた頃でした。子どもたちの育ちにとって、学びの現場は、家などの閉じられた場所だけではないと考えられつつありました。子どもたちというのは、家から外に出て、さまざまな人と関わりを持つことによって成長していくということをしっかりと理解して、そこに力を入れていこうと舵を切っていったのです。そしてその時、子どもたちが外に出てどこに行くのか。そのうちの1つが、劇場だったのです。

 

 

1982年に、私たちはボローニャ市に自分達の描くプロジェクトについて提案をする場を設けて頂きました。私たちは協同組合で運営されている組織ですが、民間組織です。民間の立場から行政に対してプレゼンテーションをさせてもらったんですが、そこで大事になってくるのが、民間と行政が手を携えて一緒に何かをしていくということでした。

その時に、行政と交わした取り決めがあります。行政は、市が所有している劇場を私たちに貸し出すので、その代わり、私たちは、俳優も、そこで働く人も、そこに見に来る人も、全ての人々を巻き込んだ活動をしてくださいと依頼されました。その取り決めは、3年おきに更新されます。ですので、私たちは3年おきに、行政から助成を受けるためにも、魅力的な新しいプロジェクト提案しています。行政のサポートは必須です。やはり子ども向けの芝居は、どうしてもチケット代を低く抑える必要があるので、行政の支援がないとなかなか続けていくことが難しいんです。

 

 

行政との連携で言えば、私たちの活動実績が基盤となり、2011年にボローニャ市で「芸術と文化における子供の権利」憲章が生まれました。子どもというのは日に日に変わっていきますので、彼・彼女らから学ぶということをしっかり続けていかなければいけないんです。子どもたちを対象とした芸術の創り手として、子どもたちについて研究することはとても重要なのですが、そこに対しても、しっかり行政が理解して、力を貸してくれています。文化・芸術や、教育的なものを成長させていくときに、この「芸術と文化における子供の権利」は非常に大事になってきます。

またこの関連で、私たちが皆さんによくお伝えしていることがあります。それは、子どもたちというのは、未来の観客ではなくて、“今の観客”であるということです。子どもたち、赤ちゃん、人は生まれた時から、それこそ0歳、1歳の時から、文化・芸術に触れることができる権利があります。私たちは、そこを大事にしたいんです。

 

 

最後に、一つだけ補足させてください。私たちは、協同組合という形で運営されていますが、利益を追求する組織ではありません。子どもたちを対象としたビジネスをしている訳ではありません。もちろん、私たちも生きていかなければなりませんから最低限のお給料というものはもらっています。ですが毎年、年度末に収支報告が上がり、多少の黒字になることが多いですが、その黒字分というのは全て子どもたちの芸術・文化のための投資に回しています。私からの話は以上です。ありがとうございました。

(つづく)

カルロッタ・ズィニ(劇団ラバラッカ)

1979年生まれ。1999年よりラ・バラッカに参加。俳優、劇作家、またラ・バラッカが運営する劇場「テストーニ・ラガッツィ」のプログラムキュレーター、国際演劇フェスティバル「Visioni」キュレーター等も務める。自身が創作した5つの乳幼児向け作品の他、多様な年齢層を対象としたの33の作品に、俳優として出演している。出演した作品は数々の賞を受賞しており、ヨーロッパの多くの国際フェスティバル他、中国、日本、カメルーン、韓国、ロシア、シンガポール、カナダ、メキシコなど世界各国で上演されている。その他、テアトロ・アルコバレーノ・プロジェクトのキュレーター、また「テストーニ・ラガッツィ」劇場と学校・教育機関との渉外を担当する。



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