劇団ラ・バラッカのふたりに聞く「乳幼児のための演劇」とは⑥~つくば世界こどもシアター 2024~

「つくば世界こどもシアター 2024」では、イタリアの劇団ラ・バラッカの言葉のないお芝居「さかさま」を上演しました。ラ・バラッカのカルロッタ・ズィニさんとアンドレア・ブゼッティさんのお二人を迎えてのトークイベント『ラ・バラッカの作品づくり~子ども真ん中の芸術と町づくり』では、ご来場くださった皆さんより、たくさんの質問を頂き、ラ・バラッカとの活発な意見交換が出来ました。その一部を、以下にご紹介させていただきます!
- 質問:日本は、子どもたちと演劇って遠いイメージがあります。ボローニャでは、子供たちにとって演劇は身近なものなんですか?
- 質問:世界中で本作「さかさま」を上演されてきたということですが、それぞれの国の子供たちの反応はどうですか?
- 質問:小学校で、子供たちがクラスごとに演劇を作る取り組みをしています。子供たちは演劇を0から作るのですが、どうしても出来上がる作品が、どのクラスも同じようなものになる場合が多いです。どうしたらオリジナリティーが出るのか、ヒントがあれば教えてください。
- 質問:日本の保育園では、発表会というものがあって、劇遊びをします。保育士として、大切にしたいことは自分達でも考えていますが、皆さんから何かアドバイスはありますか?
質問:日本は、子どもたちと演劇って遠いイメージがあります。ボローニャでは、子供たちにとって演劇は身近なものなんですか?
アンドレア・ブゼッティ(劇団ラバラッカ):例えば、私たちの劇場では、毎年数えきれないほどの子供たち向けの公演をしています。毎週、月曜日から金曜日の朝には、学校(保育所)向けの劇をします。そして、土日になると、家族向けの公演をします。子供たちは、学校(保育所)を通じて劇場にやってくる機会もとても多いので、例えば学校(保育所)で見に来た週のお休みの日には、今度は、お父さん・お母さんを連れて同じお芝居を見るということもよくあります。
大人の方の中には、劇場は行かないという人もいると思います。でも、ボローニャの場合ですと、学校(保育所)が子供たちを劇場へ連れて行くので、必然的に子どもたちは機会を得るんですね。それは、素晴らしいことだと思います。
演劇のシーズンは、11月から翌年の5月までです。このシーズンの期間には、市内の学校(保育所)が私たちの劇場にやってきて、週末は家族が来ます。毎年同じようなサイクルで繰り返されていくので、子どもたちは、成長するに従って演劇を鑑賞する機会が増えて行きます。当然こうしたことは、ボローニャ市のサポートがあって実現していることですから、ボローニャ市は、子供たちに劇場を体験する機会を多く提供しているわけです。
そこで大事になってくることは、芝居の内容です。質の高い、クオリティーのあるものを上演する。その上で、継続性を持つということが重要になります。 それから、これだけはお話させてください。私のパッションなのですが、すごく大事だと考えているのは、家族です。子供たちを学校に行かせるだけでなくて、 劇場に行かせる、連れていく、誘う、そういったことは非常に大事だと思っています。

質問:世界中で本作「さかさま」を上演されてきたということですが、それぞれの国の子供たちの反応はどうですか?
アンドレア:私とカルロッタは、もう20年近く一緒に公演をしきました。イタリアはほぼ全ての地域を回りましたし、ヨーロッパも数多く、その他の地域でも上演してきました。そうした経験を踏まえて、ご質問に答えると、1歳から3歳の子供たちの反応は、世界中どこも一緒です。
4歳から5歳、6歳。ちょっと大きくなってくると、それぞれの国の文化や教養とかっていうなものを子供たちが身につけるので、ちょっとずつ、反応にも変化が生まれますね。
ただ、3歳以下になると、子供たちの見た目は違っても、本当に同じ反応が返ってきます。
質問:小学校で、子供たちがクラスごとに演劇を作る取り組みをしています。子供たちは演劇を0から作るのですが、どうしても出来上がる作品が、どのクラスも同じようなものになる場合が多いです。どうしたらオリジナリティーが出るのか、ヒントがあれば教えてください。
アンドレア:子供たちが自分達で劇を0から作り上げるって、結構難しいことかなと思います。例えをさせてもらうと、まだ小さな子供に目の前に車を置いて、ちょっと運転してみてと言っているのと少し似てる気がします。創作過程において、しっかりガイドできる人が横にいるということが重要になると思います。
その上で、例えば、1つ主題を設定するというのも手助けになってきます。そして、何か1つのルールを与えることです。ある程度の制約の中で作る。その際、テーマもありふれたものではなく、少し特殊なものを提示します。
また、ある程度完成したところで、その作品の一番いいところを見つけてそこを伸ばすように言うと、かなり作品が変わってくると思います。例えば、踊りのシーンがあって、その踊りがすごくよかったら、それをもっと生かすようにして考えてごらんと伝えてみるということです。
大人がそばで見ていると、どうしても構成とか欠点が目立つんですけれども、そうではなくて、誰だれちゃんがすごく元気いいから、この子のシーンをもう一つ作ってとか、何かいいところを見つけてそこを膨らますという提案を、ある程度出来上がったところですると、子供たちにはわかりやすいと思うんですね。参考になればと思います。

質問:日本の保育園では、発表会というものがあって、劇遊びをします。保育士として、大切にしたいことは自分達でも考えていますが、皆さんから何かアドバイスはありますか?
アンドレア:世界中にはアートをプロフェッショナルに実践しているアーティストがいますが、ぜひ、彼らの力を借りてほしいと思います。そのために我々も今日、日本に来ています。劇というのは、プロのアーティストが、保育園の先生たちと一緒に作っていくものだと考えています。
日本の発表会というものは、海外のアーティストには想像できない部分もあると思いますが、ただ、そうした劇を軸にした機会があるのなら、ぜひ、私たちのようなアーティストが日本にもいるはずですから、彼らと一緒に、子供たちのために何かを作り上げるのが良いのではないでしょうか。
話が少し変わりますが、私はよく大人に聞かれるんです。「なぜあなたはこれを仕事にしたの?」と。長年経って、ようやく答えが見つかりました。乳幼児、0歳とか1歳とか2歳とか、それぐらいの小さな子供に対して、そのタイミングでしっかりと関わり、接してあげることによって、子供たちのその後の伸び幅が、大きく変わってくるんです。実感で気がついています。
北ヨーロッパの方の保育園の話ですが、有名なアーティストが保育園や幼稚園に行って、毎週朝4時間ぐらい子供たちと一緒に時間を過ごすのですが、そのときには学校の先生はいません。私も参加しました。その時、子供たちとは言葉でコミュニケーションを図るのではなくて、目の動きであったり体の動きであったり、私は演劇をする人間ですから、そうした身体を通じて子供たちとコミュニケーションを図りました。私の1週間後には、ダンサーの人が来たそうで、その後には、アフリカの女性画家や、コントラバス奏者だとか・・・。
その子供たちですが、普通の子供たちよりもアーティストと過ごす時間が長かったということで、芸術的観点の成長の伸び具合はその後全然違うようです。
話が戻りますが、是非アーティスト、プロの方を呼んでいただいて、一緒に子供たちのためのプログラムを作り上げてみたらどうでしょうか。
(完)