劇団ラ・バラッカのふたりに聞く「乳幼児のための演劇」とは⑤~つくば世界こどもシアター 2024~

劇団ラ・バラッカのふたりに聞く「乳幼児のための演劇」とは⑤~つくば世界こどもシアター 2024~


演劇イベント「つくば世界こどもシアター 2024」では、イタリアの劇団ラ・バラッカを招聘し、言葉のないお芝居「さかさま」を上演しました。上演後に、劇団ラ・バラッカのカルロッタ・ズィニさんとアンドレア・ブゼッティさんのお二人を迎えてのトークイベント『ラ・バラッカの作品づくり~こども真ん中の芸術とまちづくり』を行いました。今回は、劇団ラ・バラッカが地域行政との連携やヨーロッパ諸国間の連携をどのように果たしているのかという点について掘り下げていきます。

佐藤信さん(劇作家・演出家):由利子さんもお話しされていましたが、「子供は劇場に来る権利がある」というのは、権利条約などということではなくて、当然のことなんですね。僕は座・高円寺の芸術監督をお引き受けした時に、子供の事業に力を入れると言ったんです。日本の多くの劇場は、演劇好きの大人たちへサービスしていると思っていたので、座・高円寺のように公共劇場の場合は、子供からお年寄りまで、全ての方々が対象であることを目立たせるために、子供の事業に力を入れようと思いました。

公共劇場という点では、行政との連携は重要になってきます。そこで、カルロッタさんに質問をしたいと思います。

ラ・バラッカは、ボローニャ市から施設提供を受けているということですが、作品を創るお金なども補助対象ですか?または、劇団を維持するためのお金、人件費なども支援の対象になっているのか伺わせていただけますか。 日本の場合は、これは国でも地方自治体でもそうだと思いますが、残念ながら、作品を創ることしか支援をしてくれないんですよ。ここは、これからまだ変えていかなければいけないところと思いますが、ボローニャ市の場合はどうなのか教えてください。

 

カルロッタ・ズィニ(劇団ラバラッカ):ボローニャ市からの経済的支援についてですが、劇団の活動に関して言えば、例えば私たちが毎週末劇場で公演をするため、そして毎週学校に行って公演をするため、それらの費用に行政の支援があります。

劇場運営についての補助ですが、劇場は私たち専用劇場というわけではなく、他の劇団も招聘し、使ってもらったりもしています。年間を通して、大体6〜7劇団ぐらいが、数多くの作品を私たちの劇場で公演をしますが、そこに対して支援があります。また、ボローニャ市だけではなく、国や、エミリア・ロマーニャ州からも補助金を受けています。 大体、人件費も入れた年間の経費の約半分が、ボローニャ市やエミリア・ロマーニャ州からの補助金で賄われています。ですので、残りの半分は自分達で獲得しなければなりません。様々な別のプロジェクトに参加したりしながら、運営しています。

 

佐藤さん:ありがとうございました。お話を伺っていて、とても羨ましいと思ったのは、3年ごとに行政へ事業プランを出すという点で、つまりそれは、行政も民間(ラ・バラッカ)の側も、同じ目的に向かってお金を使ってるということですよね。

日本の公共劇場は、もしかしたら潤沢な劇場は、イタリアよりも資金的援助を補助金で受けているかもしれない。けれども、日本の劇場は、言ってみればただの競技場で、支払われるお金の目的について、使う側と必ずしも意思統一されていない。つまり、民間と公共が手を携えられていない。なので、3年ごとに行政とプランを擦り合わせることは、とても羨ましいと思いました。

同時に、経済面ではとても大変であるということを共有することもできたので、同じ仕事をしている者として、この仕事はすごく楽しいし、そこから得られるものも多い仕事ですが、いつでも、それが1番大変だということを改めて共感しました。

アンドレア:子供たちが楽しんでいる感情を、すぐお金に変えることができたら、みんなもう金持ちですよね(笑)。ただ、私たちの活動も認められてきていて、EUからの支援も受けられるようになりました。とある会議に参加して、その会議にはEUのいわゆる文化省大臣のような方がいたのですが、そこで、0歳から6歳までを対象にしたプロジェクトをすると話をしたら、「とても興味ある。じゃあ、ハンコを押すよ」と言ってくれて。そのプロジェクトには、自分たち単体で申請した訳ではなく、EU内の同じような趣旨を共有する複数の団体と手を携えて申請をしました。その申請書を見て、「すばらしい活動だと思うから、他国のパートナーたちとぜひ続けてほしい」という言葉をもらいました。今は児童を対象とする12劇団の方たちと、新しいプロジェクトを立ち上げています。ですから、助成金も全て我々で使うのではなく、ヨーロッパの他の国のパートナーと全て均等に割り振られています。

 

「スモールサイズ」と呼ばれるプロジェクトで少し前に終わって、4年間で終わったらもう一回申請を出したら、また助成金出しますよと言われたんです。なぜかと言いますと、それは団体の規模が12から17まで成長していた、だから、活動としてしっかりしているから、認められたんです。

EUの支援を受けた最初のプロジェクト「スモールサイズ」は、プロジェクト期間の4年間で、団体の規模も12から17まで成長しました。このプロジェクトは、国同士の文化的交流に重きを置いていましたが、次にE Uの支援を受けたプロジェクト「マッピング」は、より、それぞれの国での研究に重きを置いたプロジェクトでした。現在は、新しいプロジェクトの申請書を出そうとしている段階です。

このように様々なセクターに助成金を申請し、資金的援助を受けていますが、基本的にそのお金はさまざまな国のパートナーともシェアして、0歳から6歳までの演劇の発展に使っています。ですので、これは将来生まれてくる子供たちへの投資にもなると考えています。

こうした子供達に対する投資は、経済的な面で直接的に私たちを豊かにしてくれるわけではないかもしれませんが、文化的な成長であったり、おそらく、私たちが想像することも出来ない大きなものとして将来返ってくると考えています。イタリア国内、さらにヨーロッパの17の国で、同じような考え方を持つ研究熱心な人たちと、0歳から6歳までの乳幼児向けの演劇を発展させることが出来るのは、本当に素晴らしいことだと思っています。

小林さん:今アンドレアさんが仰ったように、助成金もラ・バラッカのためだけじゃないんですよね。EUの他の劇団と共に、子供たちのために、と考えてるところが素晴らしい。そのことを、日本にまで来てくれて語っていただいて、もっと学びたいなと思っています。

さきほど、アンドレアさんが物差しを例にして、それが実はいろんなものに見立てられるということをお話しくださいましたが、演劇と子供の遊びの同じ要素がこの“見立て”だと思っていて、これは、子供達のイマジネーションを育てることに繋がっていると思います。それを、子供っぽい演技ではなくて、とても誠実に演じる。今日の会場では舞台と客席が分かれていますが、イタリアだと舞台と客席がフラットで、演劇が終われば子供たちが、舞台のセットで自由に遊びますね。演劇と遊びがつながっているという点です。だから、毎年来てもらいたいと思っています。

アンドレア:本当に、また戻って来れたらいいなと思ってますし、これが私たちの人生だと感じています。私たちがやっているのは、皆さんに教えることでなくて、ただ語っているということなんです。

 

今、由利子さんが言ってくれたことは、基礎的でとても重要なことです。ちょっと、あるシーンを演じてみようと思います。

(アンドレアさんが立ち上がって、両腕を抱えて過剰に体を揺すぶりながら、こごえるふりをする。)

例えば小さな子供と話をするときに、今みたいな(過剰な)動きをしながら「寒い」って言う必要は全くないですよね。 子供は馬鹿じゃないんですよね。

(再び、アンドレさんが寒がる仕草をする。今度は、両腕を抱えて、少し肩をこごめる仕草だけをする。)

今の動きだけで、伝わります。

子供たちに演劇をする上で大切な3つのコンセプト。それは、まず1つ目が誠実であること。 2つ目が真実、本当の姿であること。3つ目がクリーン、綺麗な姿であるということです。クリーンというのは、香水を使っていないとか、そういうことじゃないです。子供たちに語りかけるときに、子供たちはきっと分からないからこうしなきゃならないよね、という形で勝手に変えることをしないということです。自分たちと同じような目線で伝えることが大事です。

(つづく)



THEATER – 演劇