劇団ラ・バラッカのふたりに聞く「乳幼児のための演劇」とは④~つくば世界こどもシアター 2024~


劇団ラ・バラッカのふたりに聞く「乳幼児のための演劇」とは③~つくば世界こどもシアター 2024~

劇団ラ・バラッカのふたりに聞く「乳幼児のための演劇」とは⑤~つくば世界こどもシアター 2024~
演劇イベント「つくば世界こどもシアター 2024」では、イタリアの劇団ラ・バラッカを招聘し、言葉のないお芝居「さかさま」を上演しました。上演後に、劇団ラ・バラッカのカルロッタ・ズィニさんとアンドレア・ブゼッティさんのお二人を迎えてのトークイベント『ラ・バラッカの作品づくり~こども真ん中の芸術とまちづくり』を行いました。今回は、「子供に演劇は理解できるのだろうか」という大人の疑問に対して、劇団ラ・バラッカがどのような姿勢で演劇に取り組んでいるのか掘り下げていきます。
沢辺(日伊櫻の会代表理事):次に、ラ・バラッカの乳幼児演劇国際フェスティバルにも何度も参加された、明治学院大学教授・乳幼児演劇研究者の小林由利子さんから、質問を投げかけて頂きたいと思います。よろしくお願いたします。
佐藤さん:私は本当にラ・バラッカが大好きなんです。質問をさせて頂く前に、まずひとつ、みなさんにエピソードをお話したいと思います。私がボローニャのラ・バラッカ劇場を訪れた時のことです。雪の日、子供たちが、劇場に来ようと信号待ちをしていると、それに気づいたラ・バラッカの創設者ロベルト・フラベッティが、全速力で子供たちを迎えに行ったんです。ロベルトは、アンドレアの師匠というか先輩にあたる方ですね。そして、子供たちをロベルトが劇場の中に迎え入れようとすると、そこにいた大人たちは両側によけて、子供たちは真ん中を歩いて、一番先に劇場に入って行きました。大人はその次に入ってくっていくんです。
このエピソードには、いかにラ・バラッカが子供を大事にしているかというのが象徴的に表れていると思います。ロベルトの姿勢から、大人もまた、子供たちにどのように振る舞えば良いのか学んでいる。ラ・バラッカから、大人も教育されていると感じた出来事でした。ロベルトに後で話したら、 「ユリが見ているのを知っていたから、ダッシュで行ったんだよ」と言ったのですが(笑)。

一方、日本の状況についてですが、乳幼児のための演劇というと、「子供に(演劇なんて)わかるのか」という大人があまりに多いと感じています。子供の権利条約(31条)には、「子供が芸術に自由に参加する権利」というのが明記されているのに、まだまだ日本ではそれを理解していない大人が、残念ながら多すぎると感じています。
それでは、私からの質問です。さきほどアンドレアが、「子供のやり方で、子供の言語で語る・創る」ということに触れていましたが、そのことを、もう少し話してほしいと思います。なぜかと言うと、日本の大人の方で「子供に分かるだろうか」と言う方がとても多いので、 それを何とか変えたいと思っています。
アンドレア:子供たちが劇場に来るのは、ただ楽しい時間を過ごすためだけに来るのではないと思っています。感情を揺さぶるために来る。私たちは、作品を通じて子供たちの心を動かせることができるのか、ということをとても重要に考えています。
なので、私たちが子供たちに対して創る作品のテーマも、愛であったり、人生や、死についてなど、子供にはちょっと難しいのではと考えられるようなテーマを持つこともあります。ただ、子供たちへ伝える劇ですから、子供たち分かるようなやり方で伝えることが重要です。

今日、みなさんに見ていただいた『さかさま』ですが、私にとって重要だったのは、子供のとなりで、お父さんやお母さんが一緒になって見ていたということです。劇場というのは、子供たちだけの空間ではなくて、家族の空間なんです。お父さん、もしくはお母さん、おじいちゃん、おばあちゃんでもいいです。子供と一緒に来て、物語を体験して、終わって、出て帰っていきます。そのタイミングで、子供たちはきっと、いろいろ聞きたいことがあるでしょう。大人は、そこにしっかりと答えてほしいと思います。
ただ注意して頂きたいのは、見終わったときに、お父さんやお母さんが、「何かわからないことあった?話についていけた?」と、子供に聞いてしまうことは良くありません。全てを理解する必要は、全くないんです。頭の中で、「ちょっとこれ、分からなかったな」と子供たちが思うぐらいで、劇場を出ていってほしいんです。そして家に着いて、晩御飯の時にでも、「そういえばさ、今日あのシーンで猫ちゃんの名前を言っていなかったけど、あれ何だったんだろうね」というような話題が子供から出てきて、会話が生まれる。

例えば今日、『さかさま』を見て家に帰ったとき、「真ん中に、なんかすごい装置があったけど、あれに最初は二人で寝てたけど、その後、あの装置は橋になってたよね」「うん。バスにもなってたね。あれ、何なんだろう」というような会話が生まれて、相互理解がどんどん深まっていく。そういった時間が生まれることが、とても大切なんです。 最後にお伝えしたいことです。少し挑戦的な言い方になるかもしれないんですが、子供たちは、自分たちでお金を持って、芝居のチケットを買うことはできません。それを買うのは、お父さん、お母さん、おじいちゃん、おばあちゃんであったり、学校の先生であったり、子供たちの世話をする大人になってきます。ですから、子供たちに鑑賞の機会を提供するというのは、私たち大人の責任になります。芝居にも、いろいろな種類があります。子供たちにとにかく笑ってほしい、そうした思いがあってもいいと思います。でも、それだけではなくて、見た後に何か心に引っかかるもの、心を動かすものがあって、それが家に帰ってどんどん膨らんでいく。そんな作品を創れるといいですよね。僕はそう思うんです。
(つづく)

劇団ラ・バラッカのふたりに聞く「乳幼児のための演劇」とは③~つくば世界こどもシアター 2024~

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