イタリアで暮らす人に聞くイタリアの夏休み④~フィレンツェ~

イタリアで暮らす人に聞くイタリアの夏休み④~フィレンツェ~


イタリアで暮らす人は夏休みをどう過ごすのか、フィレンツェ在住30年以上の中川章子さんに引き続きお話を伺います。都市部で働くワーキングママ・パパにとっては、学校が長い間お休みとなる夏は、誰が子どもと過ごすのか、ということが大きな問題になるとのこと。ノンナ・ノンノ(おばあちゃん・おじいちゃん)が大きな役割を果たすようです。

ー子どもたちの夏休みは、3ヶ月も続くと伺いました。この間、誰と子どもたちは過ごすのですか?

子どもたちの夏休みは3ヶ月続いても、大人も同じように休みという訳ではありません。大人たちの休みは、おおよそ2週間から1ヶ月といったところです。ですので、誰が子どもたちの世話をするのか、ということがとても大きな問題になりますね。

今は、お母さんたちも働くことが一般的になりました。 フィレンツェなんかですと、共働きじゃない家庭の方が少ないと思います。それでも、やはり子どもたちだけにはさせないという考えがあるので、そこでなんと言っても1番最初に頼りにされるのが、おじいちゃん・おばあちゃんなんです。

5〜6年前に、とあるイタリアの大臣が、Nonne (ノンネ)、日本語のおばあちゃん(複数形)に当たりますが、彼女たちが、「イタリアにとって1番大切な人的資源(la risorsa umana più importante d’Italia)」だと言ったんですね。ジェンダーの問題もあるので、Nonni(ノンニ)、おじいちゃんたちも含めた方が適切な表現なんでしょうけど。

世論からは、社会のケア制度が不足していることに対して、開き直ってるんじゃないか、と批判も出ましたが、みんな、それを聞いて衝撃を受けつつも、確かに1番頼りになってしまうというか、頼りにしてしまう存在だなって納得してしまってね…。

wilford peloquin, CC BY 2.0 https://creativecommons.org/licenses/by/2.0, via Wikimedia Commons

ーそうすると、夏休み中は、おばあちゃんやおじいちゃんに、子どもの世話をお願いすることが一般的ということですか?

ええ、よくあることです。6月の半ばぐらいにスーパーに行くと、おじいちゃん・おばあちゃんに連れられた小学生ぐらいの子をよく見ます。それで、ああそうか、もう夏休みなんだな、と思ったりします。

フィレンツェの場合は都市なので、地方出身者も多く住んでいます。ですから、夏休みが始まってから少しすると、おじいちゃんやおばあちゃんが住む田舎に、子どもたちを車で送り届ける、そういう人たちも結構います。

ーなるほど。おじいちゃん、おばあちゃんが頼りなんですね。

ええ。ただ、3ヶ月の間、いつでもおじいちゃんやおばあちゃんが見てくれるかというと、そんなことはないですよね。そういう時は、例えば、親の職場に子どもを連れて行くこともあります。日本だと、信じられないでしょ? でも、こちらでは(非公式ながら)ありですよ。もちろん職場の性質にもよりますが、イタリア人たちは、その点はかなり寛容だと思います。

例えば、以前私がアルバイトしていた会社でも、そこは 20人ちょっとの社員数でしたが、何人かが時々、子どもを連れて出社していましたね。私の夫は公務員でしたが、やはり子どもを連れて行ったこともあります。繰り返しますが、非公式ですよ。ほかに手立てがない時にです。

―面白いですね。日本だと、職場に子どもを連れていくっていうのは、あまり考えられないですね。

あとは、子どもの世話をお願いする先としては、市が企画運営するチェントロエスティボ(centro estivo)という、サマースクールみたいなものがあります。空いている公立学校の施設をそのまま利用して、8時半から4時半ぐらいまで、確か1週間とか2週間とか、その程度の期間だったと思いましたが、有料で子どもを預かってくれます。どこの自治体でもやっていると思いますよ。うちの子も、2回ぐらい利用したことがあります。ここでは、勉強させるわけではないんです。アニマトーレ(animatore)と呼ばれる子どもの世話をしてくれるお兄さん・お姉さんたちが、一緒に過ごして、一緒に遊んでくれます。

wilford peloquin, CC BY 2.0 https://creativecommons.org/licenses/by/2.0, via Wikimedia Commons

―夏休み期間中、フィレンツェの子どもたちは1日をどのように過ごしますか?

こちらの子どもたちは、昼間、特に午後は暑いので、家の中で昼寝したりして過ごし、夜、涼しくなってから外に出る習慣が結構あります。例えば夏休み期間は、夜になると野外で映画を上映する場所が、フィレンツェだと7、8か所くらいあります。上映される映画に新作はほとんどないのですが、いろんな作品が日替わりで楽しめます。有料ではありますが、安いです。子どもが見ても楽しい作品だと、子どもたちも大勢やって来ますよ。近年では、高校生ぐらいになると、友達同士で夜一緒に集まって、何か飲みながら立ち話をするのも一般的です。夜の社交の世界が若年層から始まって、同時に、親は子どもたちを送り迎えすることが多いようです。

―日本の場合、例えばスポーツやクラブ活動をしている子どもたちだと、夏休み期間中に大きな大会があったりして、それですごく忙しかったりします。イタリアでも、夏に大きな大会があったりしますか?

日本の学校っていうのはすごいですよね。クラブ活動とかもあると、子どもたちの世界の大部分を、学校が占めますよね。イタリアの学校は、そこまでではないです。まず、クラブ活動とかは全然ないですね。習い事として、何らかのスポーツを子どもにはさせた方がいいっていう、共通認識は割とあるかと思いますが。

ローマに住んでいる私の親戚の子どもたちは、新体操やダンスをやっていて、県大会や州大会に出場しました。ですが、こうした大会も真夏にはないようです。

―夏休みは本当に、休むための時間なんですね。

イタリア語でバカンスを意味するヴァカンツァ(vacanza) って、「空にする」ことを意味するヴァカーレ(vacare)、という言葉から来ているんですよね。ですから、バカンスは、空っぽにするための時間です。

wilford peloquin, CC BY 2.0 https://creativecommons.org/licenses/by/2.0, via Wikimedia Commons

―なるほど。日本で暮らしていると、夏休みは色々と予定を埋めたい、埋めなきゃいけない、という気持ちになりがちです。また社会的にも、イベントや大会をやるべき、って思ってる人が結構いると思います。

イベントとは違いますが、自然に触れ合ったりすることや、子どもたちにそういう機会を作ることは理想だ、という風には考えられています。

ただ、親がいなくとも、子どもたちだけで自然に触れ合えるサマーキャンプなどを利用するとなると、有料になりますので、やっぱり今でも大事な役割を担っているのが、ノンノ・ノンナ(おじいちゃん・おばあちゃん)なのかと思います。

―おじいちゃん、おばあちゃんが頼りになる国なんですね。

そうなんですよね。マンマ(お母さん)の国って言われてましたし、今でもよく言われるんですが、20~30年前から、実質、ノンナ(おばあちゃん)の国です。 「マンマの味じゃなくて、ノンナの味ですよ」ってね(笑)。

子どもの世話という観点で考えれば、程度によるかと思いますが、おじいちゃんやおばあちゃんにとっても、子どもたちと過ごすことは、すごく刺激になると思います。ただ一方で、責任が伴いますから、どこまでお願いするのかというのも、ケースバイケースだと思います。

―お話を伺って、イタリアと日本の夏休みの違いが分かり、とても興味深かったです。ありがとうございました!

(日伊櫻の会発行会報誌コムーネ2022年9月号より転載)