イタリアで暮らす人に聞くイタリアの夏休み①~ルッカ~

イタリアで暮らす人に聞くイタリアの夏休み①~ルッカ~


イタリアの夏と言えば、やっぱり、ヴァカンツァ(バカンス)!6月から9月まで続く、イタリアのなが~い夏休み。イタリアに暮らす人、そして子供たちは、どのように夏休みを過ごしているのでしょうか。

トスカーナ州の古都・ルッカに暮らす生粋のルッケーゼ(ルッカ人)夫妻の、ルーカ・ガッリさんと、エリーザ・ディ・メオさん。3歳になるジュリアちゃんと、夏休みを過ごしています。

ルッカは、総合舞台芸術と言われるオペラの巨匠・ジャコモ・プッチーニが生まれた街としても有名です。そんな芸術の都ルッカでは、子どもたちが小さいころから、当たり前のように、舞台に触れる機会があるようです。

―今年の夏休みは、皆さん、どのような予定ですか?とする人たちが、自分の暮らす地域を変えるために、どのようにサポートしているのでしょう?

ルーカ・ガッリさん(以下L):イタリアでは、学生の休暇は6月から始まり、9月まで続きます。大人は2週間程度の休暇が一般的ですね。海や山、また美しい街を訪ねるための休暇です。私たちは、8月下旬から9月上旬にかけて、サルデーニャ島に行く予定です。

―それはステキですね! 因みに、ルッカの人々に人気のある滞在地はどこですか?

L:それは答えるのが非常に難しい質問ですね、人によって様々ですから。ただ、夏の間、ルッカにとどまるのも一つの過ごし方ですよ。そういう人たちのためのイベントも、たくさんありますからね。6月から7月にかけては、ルッカの旧市街にあるナポレオン広場で、ルッカ・サマーフェスティバルという音楽の祭典が開催されます。世界的なアーティストがルッカに集います。また、ルッカ県ヴィアレッジョ市のトッレ・デル・ラーゴでは、毎夏プッチーニフェスティバルという非常に盛大な、またイタリア国内でも重要なオペラの祭典が開催されます。ルッカは、プッチーニ生誕の街ですからね。

子どもたちのためのプログラムも数多くありますよ。例えば、イマジナという絵本の祭典や、ルッカ・テアトロ・フェスティバルという演劇祭が挙げられます。6月から8月の夏休み期間中に開催されるこの演劇祭では、国内で高く評価される様々な劇団たちによって、14の舞台が上演されます。野外広場や劇場内などさまざまな場所で開催されますが、基本的に涼しくなる夜に上演が行われます。会期に併せて、演劇に関するさまざまなワークショップや、展覧会なども企画されます。

今年で8回目になる演劇フェスティバルですが、子どもとその家族たちは、演劇や関連するプログラムを全て無料で楽しむことが出来るんです。未就学のまだ小さな子どもたちも、たくさん参加します。

―ルッカの子どもたちは、幼い頃から演劇に触れられることが出来て、とても幸運ですね!日本では、未就学児も参加できる演劇祭は、あまり多くないと思います。

L:今のイタリアの子どもたちの方が、昔よりも観劇する機会が増えていると思います。私が子どもの頃は、たまに先生に連れられて観劇に行ったくらいで、今の子どもたちほど頻繁ではなかったと思いますよ。

また、ルッカ市には街の中心に歴史あるジーリオ劇場がありますが、子ども向けプログラムも多数行っていて、こども劇場としての役割もあります。ルッカの子どもたちには、とても馴染みのある場所です。夏休み期間中には、ジーリオ・ラボという演劇ワークショップも企画されます。プッチーニのオペラについて楽しく学ぶワークショップを、4歳の子どもたちからを対象に行ったりしています。未来の劇場の観客を育てているんです。

エリーザ・ディ・メオさん (以下E):子どもたちのための芸術文化について言えば、ルッカ郊外の広大な自然の中で行われているプロジェクト「デッロ・スコンピリオ」(Dello Scompiglio)についてもお話したいと思います。デッロ・スコンピリオは、セシリア・ベルトーニによって創設されたプロジェクトで、土や森、動物、建築など、周囲の豊かな環境と、芸術との間で、どんな対話が可能か、文化にどんな貢献ができるのかをテーマに様々な活動しています。その際、すべてのプロジェクトは、環境とのかかわり方や、環境への責任という観点から評価されます。

デッロ・スコンピリオは、2007年から文化協会も運営していて、私はここで働いています。劇場やコンサート、展示会など運営する協会です。私たちの劇場では、学校向けにマチネ(昼の公演)も数多く上演していて、多くの子どもたちが観劇にやってきますよ。また、ギャラリーもありますが、ここでは、デッロ・スコンピリオに長期滞在したアーティストが作成したアートを展示しています。日本からも、アーティストの塩田千春が滞在して、2014年に作品を展示しました。

その他に農場の経営も行っていますし、そこで生産された野菜を提供するレストランも併設されています。劇場やギャラリーのあるアグリツーリズモのような場所ですね。

 

―劇場があるということですが、デッロ・スコンピリオは、劇団も持っているのですか?

E:劇団はありますが、子ども向けではなく、大人向けの劇を制作しています。なので、私たちが子どもたちを対象としたイベントを企画する際は、他の劇団に子ども向けプログラムの制作を依頼しています。

―デッロ・スコンピリオの子ども向けプログラムを拝見すると、イタリア国内の様々な子ども劇団による公演を企画されていますね。これだけの規模の文化活動を維持することは、経済的にも大変だと思いますが、デッロ・スコンピリオの活動は、民間企業や行政によってサポートされているのでしょうか?

E:いえ、この活動はデッロ・スコンピリオを設立した創設者たちによって経済的に支援されています。創設者の想いは、すべての人のための劇場を作る、ということです。ですから、チケットはとても手頃な価格で販売しています。私たちの活動において、収益性は第一の関心事ではありません。ただ、子どもたち向けの事業においては、近年、地元の財団や自治体とも協力し始めました。

ーとても強い想いによって運営されているんですね。この夏の特別なプログラムはありますか?

E:9月に子どもたちのためのサマー・フェスティバルが予定されています。ハンドクラフトや自然のワークショップ、敷地内で行う野外演劇など、様々な内容で開催します。

また6月下旬から7月中旬にかけての3週間は、敷地内の自然を存分に味わう子ども向けのサマー・キャンプを開催しました。6歳から10歳の子どもたちを対象に、1週間単位で最大2週間まで参加を申し込むことが出来ます。朝8時半から始まり夕方4時半まで、平日の間は毎日実施されました。

―サマー・キャンプでは、どのようなプログラムが行われるのですか?

L:子どもたちは、教育者や、アーティストによって行われる様々なワークショップに参加します。そして森の中に、スコンピリオ・タウンという小さな仮想の村を皆で協力して作り上げます。そこを舞台として、村づくりのゲームを行うことで、子どもたちはコミュニティとして様々な体験をするんです。

―子どもたちのために本当に様々なプログラムが実施されているんですね。娘さんのジュリアちゃんも3歳になりますね。デッロ・スコンピリオに連れていくことはありますか?

E:ええ、彼女は時々、劇を見に来ますよ。

―親と子どもが一緒に観劇することは、子どもたちにとっても、また親にとっても、貴重な体験ですよね。

L:はい、ジュリアは観劇することをとても楽しんでいます。イタリアだと、公演の最中でも、子どもたちは終始、俳優たちにしゃべりかけています。そして俳優もまた、子どもたちに話しかけるんですね。子どもたちが交流したいと思っていることを、俳優たちはよく知っているんです。

―すばらしいですね!日本ではイタリアほど、幼少期の子どもたちを劇場に連れて行くことが根付いていない気がします。また連れて行っても、子どもたちには公演中、静かにするよう大人が言い聞かせたりします。

L:イタリアでは、子どもと俳優の交流も、公演の一部だと考えられています。それに、子どもたちの反応や発する言葉を聞いて、感動を覚えることもありますよ。私たち大人は、子どもたちから多く学ぶことが出来ると思います。

―ジュリアちゃんも観劇中にしゃべりますか?

L:はい、彼女はとてもたくさん話します!また、舞台を見て覚えたセリフを2、3週間経っても繰り返し言うんですよ!驚きますね。

―素敵なお話です。きっと、忘れられない経験だったのでしょうね。お話、ありがとうございました。サルディーニャで素敵な夏をお過ごしください!

(日伊櫻の会発行会報誌コムーネ2022年9月号より転載)

左:ルーカ・ガッリさん

中:ジュリアちゃん

右:エリーザ・ディ・メオさん