「環境問題は教育問題である」レミダの取り組み③

「環境問題は教育問題である」レミダの取り組み③


感性を重んじる幼児教育「レッジョ・エミリア・アプローチ」で有名なイタリア、エミリア=ロマーニャ州。そこには、地域の廃棄素材を活用して、子どもの教育素材とする「レミダ」という取り組みがあります。レミダは、世界中の保育士や教師に、トレーニングも提供しています。経済や社会とつながりの中で環境問題を考える、その視点について、レミダでトレーニングプログラムを担当するエロイザ・ディ・ロッコさんに引き続きお話を聞きます。

/ 取材・文 多田 亮彦

―― エロイザさんは、レッジョ・チルドレンの職員でもあられるということですが、担当されているレミダでの仕事について教えてもらえますか?

レミダでは私の他、2人の同僚と一緒に働いています。あなたがここに来た時に会ったラウラは、レミダの広報やアクテビティの企画を担当しています。シルビアは、素材を提供してくれる企業と素材の利用者たちとの連携を担当しています。私は素材を活用したトレーニングの開発を担当しています。トレーニングプログラムを作って、子どもたちの教室やレミダで、ワークショップを行っています。レッジョ・チルドレンでは、環境問題を背景に、持続可能性と教育に関連した多くのプロジェクトに取り組んでいて、ラウラと私は、欧州委員会が出資するプロジェクトに参加しています。これらのプロジェクトは、レミダに比べると比較的小規模で、通常3年以内に終了するものが多いです。

―― 保育士・教師向けのトレーニングも行うのですか?

ええ、とても多いです。またトレーニングに参加する保育・教育関係者は、イタリアに限らず、世界中から集まってきます。通常はレミダでトレーニングを行っていますが、要望があれば外部でもトレーニングを行いますよ。

―― トレーニングコースの期間はどのくらいですか?

トレーニングには、決まりきったマニュアルというものはありません。それぞれのグループのニーズに合わせて組み立てます。レッジョ・エミリア・アプローチや、レミダについて、また保育や教育現場でどのように素材を使うかについて、すでに知識を持っている人が多い場合もあれば、何も知らない人が中心のグループの場合もあります。まず私たちは、彼らがどのような状況にあるのか、そしてトレーニングを行うにはいかなるアプローチが最適なのかを知るために、時間をかけて話し合います。トレーニングの長さは、午後だけ行うこともありますし、1日を使う場合もあります。また、初日は理論的な内容を、2日目は実践的な内容を、といった具合に2日かけて行われることもあります。

―― レッジョ・チルドレンやレミダの目的は、活動から利益を得ることではないようですが、世界中の保育士・教師にトレーニングを提供することは、レミダのビジネスなのでしょうか?

おっしゃる通り、私たちの活動の目的は、利益ではありません。そもそも、レミダの運営にはあまり費用がかかっていません。私たちの施設は、建物は自治体のものなので、ここに拠点を置く費用はほとんどかかりません。また、イーレンからは、活動のための年間予算を提供してもらっています。こうした理由から、幸いなことに、私たちは利益を追求する必要がないのです。もちろん、予算が足りないこともあるので、収入を得る活動はしていますが、それ自体が目的とはなりません。ですから、私たちは自由に活動を行うことが出来ます。活動にあたっての唯一の原則は、廃棄物を資源として利用するという文化を広めることです。また、レッジョ・チルドレンが参加するプロジェクトも、通常、第三者が資金を提供しているので、利益を求める必要がありません。

―― レミダの活動は、行政やイーレンなどのステークホルダーに報告をする必要があるのでしょうか?

もちろんです。毎年行ったすべての活動を、数字にして報告する必要があります。例えば、資材の数や重さを報告しなければなりません。ゴミにならずに済んだ資材の量は、毎年14~15トンにもなります。


レミダでは、「環境問題は教育問題である」と考えています。

―― 近年、気候危機、マイクロプラスチック、生物多様性など、持続可能性の問題に関する社会の見方は大きく変化しています。これらの問題は、レミダ設立当初も重要なものと考えられていたと思いますが、年々、人々の危機感・状況の切迫感が増しています。気候変動による自然災害を目にすることが日常となり、各地の若者が、政治家や経済界のリーダーに急激な変化を求めています。このような状況を、レミダはどのように捉え、また対応しているのでしょうか?

持続可能性の問題は、最近は世界政治の中心的課題です。1996年、レミダが誕生した年には、環境問題について話している人はごく少数だったと記憶しています。当時の人々の頭の中で環境問題が占める割合は、それほど大きくはありませんでした。近年の大きな変化は、環境問題が環境だけでなく、経済や社会の観点でも議論されることが増えた点だと思います。これは非常に大きな変化だと思います。レミダでは常々、環境を考える際に、さまざまな側面を考えることが重要だと言っています。気候変動だけでなく、移民の増加、エネルギーコストの上昇、世界的な格差の拡大などの関連性を強調することが重要です。レミダでは、「環境問題は教育問題である」と考えています。レッジョ・チルドレンのカルラ・リナルディ会長は、環境問題は、ルールを書いて人々に守らせるだけの問題ではなく、世界や私たちを取り巻くすべてのものに対する態度を変えることがとても重要であり、だからこそ教育の問題であると考えています。教育を変えていくことは、喫緊の課題であるといつも言っているのです。環境問題は、ルールを作るだけでは解決出来ません。学びを通して、態度を変えることが重要です。

サステナビリティについて語るとき、それは教育に関わることなのです。

人は、学校で学ぶだけでなく、さまざまな場面で学ぶので、学習のプロセスをどう考えるかが重要です。生涯学習は、私たちが常に刺激を受けているものです。つまり、サステナビリティについて語るとき、それは教育に関わることなのです。私たちは、国連が提唱するアジェンダ2030に沿って、持続可能な開発目標の4番である「包括的で公平な質の高い教育を確保し、すべての人に生涯学習の機会を促進する」ことを重視しています。なぜなら、この目標が達成されれば、他のすべての目標も達成しやすくなると考えるからです。ユネスコも「持続可能な開発のための教育」を定義し、持続可能性を実現するための教育の重要性を強調しています。

―― 環境との新たな関係を築くためには、教育が中心であり、緊急の課題であることに同意します。「環境問題は教育問題である」とは、非常に重要な指摘に思えます。リナルディ会長についてもう少し詳しく教えてください。

カルラ・リナルディは重要な人物ですね。彼女は、教育学者であり、学校のディレクターであり、ローリス・マラグッツィ氏の協力者であり、友人でもあります。

―― レッジョ・エミリア・アプローチの創始者の一人ということですね。

そうとも言えますね。しかし、レッジョ・エミリア・アプローチのより興味深い点は、最初から多くの教育学者や教師が関わっていることです。レッジョ・エミリア・アプローチは、いわばコミュニティから生まれたものなのです。

―― このコミュニティ・アプローチは、イタリアで起こっている最も魅力的なことの一つのように思います。以前コムーネACIGで取り上げた 、ボローニャの子ども劇団「ラ・バラッカ」も、教育学者や教師、そしてアーティストのコミュニティから生まれ、劇団のメンバーはすべて経営に参画するいわゆるワーカーズ・コレクティブ(労働者協同組合)として運営されていました。ここで、あなた自身のことをお聞きしたいのですが、どのようにしてレミダやレッジョ・チルドレンに関わるようになったのですか?

私が参加した経緯は少し変わっています。私は生まれも育ちもローマで、レッジョ・エミリアからは遠く離れています。大学ではイタリア文学を専攻し、卒業してからは広告代理店でコミュニケーションやグラフィックの仕事をしていました。なので、いわゆる一般企業の会社員としての働き方が染みついていました。自分が何をして、どんな結果を生み出すか、個人的な成果を重要視する働き方です。失敗も成功も、すべては自分次第なのです。その後、あるきっかけがあってレッジョ・エミリアに移住し、この街で私は2人の娘の親になりました。そして、レッジョ・エミリア・アプローチに出会ったのです。それまでは何も知りませんでした。親としてレッジョ・エミリア市の保育園に通い始めました。最初は長女の時、そして次女の時もです。私にとって、それは嬉しい発見でした。この保育園の運営のされ方が、とても気に入ったのです。このシステムの中に入って、自分も仕事がしたいと考えました。それで、レッジョ・チルドレンが提供するいくつかのコースを受講した後、レミダで働き始めることになったのです。つまり、私は最初は親として、レッジョ・エミリア・アプローチに外側から関わり、その後、職員になって内側から関わるようになったのです。

働き始めた当初、私は会社員としての働き方が身に沁みついていたので、仕事に対する考え方を変えるのはとても苦労しました。自分を変えなければなりませんでしたが、いまでは人々と協力してプロジェクトを行うこの働き方が、とても気に入っています。