アナログとデジタルの技法を操る絵本作家~絵本作家フィリップ・ジョルダーノ③~
日伊で活躍する絵本作家フィリップ・ジョルダーノさん。様々な技法を取り入れながら創作活動を行う中で、子ども向けの作品を作るにあたって大事にしていることを聞きました。
ー技法についてお尋ねしますが、フィリップさんは、手描きからデジタルまで、様々な技法を取り入れて創作されていますね。
作品の文脈によって、取り入れる技法は使い分けています。例えば『かぜのうた』は、デジタル技術を使って作り上げていますが、この作品の対象は、0歳や1歳といったとても小さい子供達です。幼児向けの作品を作る上で重要なのは、描かれる対象がはっきりとしていることです。そしてそのクリアさは、デジタルが効果的に生み出せるところでもあります。子供達は、世界の中に出て行く際に、言葉を覚えていく必要があります。絵本に登場するタンポポや、かざぐるまといったモノが作り出す音を通して、そのモノが一体何なのか、そしてそのモノの名前を学びます。だからこそ、小さい子供達向けのイラストは、クリアで分かりやすくなければなりません。子供達は世界を知るための地図が必要ですし、絵本はその役割を担っているんです。
ーデジタルによるクリアさがありながらも、フィリップさんの作品には詩的な繊細さも感じます。
その点は、全てのイラストを制作するにあたって、自分のミッションとして、常に心がけていることです。私は、デジタルの技術をよく使いますが、一見、単色に見えるところにも複雑なグラデーションを施したり、手書きのスケッチをスキャンして取り込むなど、細かなこだわりがあります。デジタルの技術を使って、手書きが生み出せるような温かみや繊細さを表現することを大事にしているんです。
デジタルと手書き、それぞれの技法が持つ良い点を引き出しながら、クリアな絵でありつつも、洗練された詩的な雰囲気を作ることを心がけています。
ー最後に、子どもの絵本を作るにあたって、大事にしていることはなんですか?
たった1つの決め事ですが、それは自分自身に誠実であるということです。自分の中にある真実を見つけて、それを物語や絵で表現するために、誠実でなければいけないと思っています。
私たちは毎日様々なことに影響を受けています。そうした中で、何か表層的なことを真似て、これは自分だと言っても、それは自己表現ではなく他を真似ただけです。今、私たちの周りには絵本も含めて、様々な本があふれています。あふれすぎていると言ってもいいくらいです。残念ながら、そうしたものの中には、ただトレンドを追っただけの本も少なくありません。自分に誠実であるということは、とてもシンプルなことに聞こえますが、様々な情報に溢れる今日の中では非常に難しいことでもあります。そして、自分に誠実であることは、作品の読者である子どもたちに対して誠実であることも意味しているんです。(終わり)