芸術との向き合い方の国による違いは子どもたちと教師・保護者との関係に見える~劇団ラ・バラッカ③~

芸術との向き合い方の国による違いは子どもたちと教師・保護者との関係に見える~劇団ラ・バラッカ③~


子どもだけを対象に演劇公演をする劇団「ラ・バラッカ」は、様々な国で公演活動を行っている。観客である子どもたちはもちろん、子どもたちを劇場へ連れて行く大人も、国によって芸術との向き合い方が異なると、俳優兼プログラム・ディレクターであるカルロッタさんは言う。日本の観客の印象についてはどのような印象を持ったのか聞いた。

―カルロッタさんは、日本でも公演されたことがあります。日本の観客の印象を教えてもらえますか?

 私たちは1才から6才の子どもたちのための演劇で、これまでたくさんの国々を訪れました。そうした中でまず私が思うことは、どの国でも1才から3才までの子どもたちの演劇への関心、反応は実はとても高いということです。これは社会にとって素晴らしいことであり、非常に重要なことだと思います。文化省は1才からの子どもにどう向き合うかもっと真剣に考えるべきですね。世界各地で、「子どもたちは明日の観客である」といって、子どもたちを劇場に連れていくべきと主張する人々がいますが、私の考えは違います。彼らは未来の観客ではなく、今日の観客なんです。私たち大人は、芸術や文化にアクセスする権利を1才の子どもたちにきちんと確保するべきだと思います。彼らは未来ではなく、今日の市民だからです。彼らは決して投票を始める18才から市民になるのではありません。 

公演後、子どもたちや教師を舞台に上げて交流する様子。

国ごとの違いは、子どもたち自身ではなく、子どもたちと教師や保護者との関係において現れます。例えば、何年も前に初めてドイツで公演したときのことです。何人かの親たちが、公演中にも関わらず、子どもたちの背中を押して舞台に上らせたのです。俳優と観客の積極的なやりとりが想定されていない演目でも、お構いなしに子どもたちを舞台に上らせ演劇に参加させようとして、大変驚いたのを覚えています。 

日本では、親たちが状況を尊重して非常に静かに観劇しますね。子どもたちもとても行儀良いです。日本の親たちは、子どもたちが少しでもしゃべろうものなら黙っているように言うことが多いですが、そういう態度は時に厳しすぎるかもしれません。公演中ずっとはダメですが、声は彼らの感情から生まれるものですから、少しぐらいは構わないと思います。 

イタリアでは、1才から3才の子ども向けの演劇がたくさんあるので、公演中にどうやって子どもと過ごすのがよいのか、親たちに教える機会が多くあります。まず伝えられるのは、子どもと一緒に親自身も演劇を体験することの大切さです。演劇は、子どもたちのためだけのものではありません。親や教師たちのためのものでもあります。

ラバラッカ主催「ヴィジョン・オブ・フューチャー、ヴィジョン・オブ・シアター」国際フェスティバルに向かう子どもたち。毎年開催される。

イタリアでは、公演中に舞台の上で何が起こっているのかを、事細かに子どもたちに説明しようとする親がたくさんいますが、子どもたちに説明は必要ありません。演劇を見て感じさえすればよいのです。理解することは重要ではありません。参加することが重要なんです。参加といっても、俳優とセリフを交わすという意味ではありません。そこで演じられている物語を自分も生きるという意味での参加です。それは、例えばテレビを受動的に見るのとは全く違う体験です。劇場では、俳優たちは目の前にいます。俳優も観客も生きていて、同じ時に同じ場所にいます。演劇は、今この瞬間を経験することなんです。クレイジーだと思われるかもしれないですが、私は、本当に素晴らしい演劇を見ると、それだけでおなか一杯になってしまって、何も食べたくなくなってしまうんです。本当ですよ。私の場合は、演劇が好きすぎるのかもしれませんね。



THEATER – 演劇