イタリア初の自治体と連携した子どものための劇場〜劇団ラ・バラッカ②〜

イタリア初の自治体と連携した子どものための劇場〜劇団ラ・バラッカ②〜


劇団「ラ・バラッカ」はボローニャ市を拠点として、子どもだけを対象に演劇を公演している。イタリアで初めて自治体と連携した子どものための劇場。俳優兼プログラム・ディレクターであるカルロッタさんに、地域社会とのかかわり、劇場運営について聞いた。

―ラ・バラッカと地域社会の関わりを教えてもらえますか? 

ラ・バラッカの物語は、1986年に教師、教育学者、ボローニャの自治体とのコラボレーションから始まりました。以来、ずっと良好な関係を築いてきています。ボローニャは特別な都市です。ここには1才から3才までの子ども向けの公立教育機関が50校あります。1980年代に、ラ・バラッカはこれらの教育機関を訪問してワークショップを提供し始めました。ある日、教師たちはロベルトに「1才から3才の子ども向けのショーをつくってみてはどうか」と提案したそうです。それまで、1才から3才までの子どもたちは、小さすぎて演劇の対象とは考えられていなかったのです。小さな子どもたち向けの新作舞台をつくるときは、まず新作の5分または10分を学校の教室で見せて、子どもたちの反応を観察し、教師や教育学者たちと話します。教師や教育学者たちだけで劇場に来て、リハーサルを見て、フィードバックをくれることもあります。私たちのパフォーマンスの根底には、子どもたちについての深い知識があります。子どもたちを完全に理解しているとは言えませんし、それはとても難しいことですが、少なくとも私たちは彼ら、彼女らの反応や態度をよりよく知るように努めています。私たちは、とにかく子どもたちをよく観察しているんです。 

演劇『アップサイド・ダウン』の一コマ。見知らぬ隣人が一緒に猫を探すことを通して友人となる。右がカルロッタさん。

イタリアの学校は、カリキュラムについて一定の自治を持っていて、例えば、ワークショップ、小旅行などを提供できます。その枠組みの中で、ラ・バラッカは演劇ワークショップと公演への招待を学校に提供しています。ワークショップの最小開催数は4回で、10回開催できる場合は、ワークショップの最後に子どもたちが小さなパフォーマンスをつくることもあります。ワークショップに参加した子どもたちと話し合いながら、一緒につくり上げます。課題演目というのは特になく、常に子どもたちのアイディアから始めるので、毎回毎回がまったく新しいパフォーマンスになります。また、子どもたちを劇場に招待する際には、公演の終わりに子どもたちと10分間ほど質疑応答をして、彼らが感じたことや疑問に思ったことを話し合います。劇場で体験するショーは、俳優と子どもたちの間で何かが起こる特別な瞬間です。

演劇『レッド・ライディング・フッド』(赤ずきんちゃん)で演じるカルロッタさん(右)。

―ラ・バラッカは、どう運営されているのでしょうか? 

ラ・バラッカは、イタリアで初めてつくられた、自治体と連携した小さな子どものための劇場です。労働者協同組合として運営される民間企業です。社長というのはいなくて、メンバーすべてが労働者で、数年に一回役員を選出する選挙をして代表者を決めています。現在、21人のメンバーがいます。ラ・バラッカの組合員は、まず、通常の受託契約者のような形式で働き、その後、出資して組合員になるか否かを選択できます。私たちはボローニャ市のテストーニ・ラガッツィ劇場を拠点としていますが、この劇場は市から提供を受けています。ラ・バラッカは、自治体や文化省からの支援、ワークショップ、ツアー、チケットの販売から活動資金を得ています。更に私たちは、EU領域内の18の劇団が参加する小さな子ども向けの演劇ネットワーク「マッピング」に参加しています。このプロジェクトは、EUから助成を受けて活動しています。また、これも重要な点ですが、例えば、ボローニャ国際音楽博物館や図書館などの市内の公共施設と協力して、年に数回それらの場所を使って小さな子ども向けの公演をしています。 

子どもたちに提供するワークショップの様子。

これは私個人の意見ですが、ラ・バラッカで働くものにとって最も豊かなことは、さまざまな役割を務める機会に恵まれているということです。例えば、私は俳優としてだけではなく、プログラム・マネージャーとしても働いています。一般的に俳優は、優れた舞台をつくり上げるために監督や演出家、振付家との仕事に集中するものです。しかしながら私の場合は、俳優として、またプラグラム・マネージャーとして、舞台を専門としない子どもや教師などの人々との関係が重要になります。それらの人々と共有した経験をいかに舞台に活かせるかが大切になります。俳優とプログラム・マネージャーというこれら2つの異なる役割を組み合わせることが私にとって非常に重要であり、ラ・バラッカは、私にアーティストとして特別なあり方を提供してくれています。その意味で、私はとっても幸運だと思います。

公演後に俳優が子どもたちと話す様子。


THEATER – 演劇