「子どもたちは未来の観客ではなく、今日の観客なんです」〜劇団ラ・バラッカ①〜
ボローニャ市にある劇団「ラ・バラッカ」を、ご存じだろうか? 0才から12才くらいの子どもたちのためだけに、演劇を公演している劇団である。編集部は、2019年3月にボローニャを訪れた際に、ラ・バラッカの演目を現地の子どもたちと一緒に観劇し、感激した。冗談ではない。 本誌の大きなテーマである「子どもと教育」を考えるため、ラ・バラッカの組合役員を務め、俳優兼プログラム・ディレクターであるカルロッタさんに、子どもと演劇について伺った。
取材・文 多田 亮彦
―カルロッタさんはどのようなきっかけで、ラ・バラッカに参加することになったのですか?
私がどのように今の仕事を始めたのかをお話ししますね。ラ・バラッカとの出会いは、私の子ども時代に遡ります。私はボローニャから25キロ離れたメディチーナという人口17000人の小さな町で育ちました。当時、私は11才で、通っていた学校でやっていた演劇のワークショップに参加していました。それは全生徒が参加しなければならないワークショップでした。その学校は普通の公立学校だったんですが、特別な校長先生がいたんです。ジュリアーナ・グランディという方で、彼女が11才から13才までのすべての子どもたちに劇場ワークショップを提供することを決めたんです。当時のイタリアの学校では演劇のクラスは通常ありませんでしたが、ジュリアーナ先生は先見の明があったのでしょう、子どもたちのために演劇の授業を提供することを決心したんです。その時のワークショップのリーダーは、ラ・バラッカの創設者の一人であるロベルト・フラベッティでした。演劇は自分を表現する方法を学ぶものです。学校の必修科目である、数学、イタリア語、英語などでは、教師から決められた内容を学び、そこには正解と不正解があります。一方、演劇のクラスでは、同じ正解を教える教師はいません。そこにいるのは、演劇を通して子どもが自分自身を発見するのを手伝ってくれる人だけです。良いか悪いかの判断もなければ、点数もありません。ただ自分の表現を試すだけなんです。毎週2時間を10週間、3年間続けたのですが、その経験を通して、私は演劇に夢中になりました。
私が14才で学校を卒業したころ、ロベルトは同じようなワークショップを学校の外でも続けたいと考えていました。そこで、メディチーナの自治体の場所を借りて週に一度ワークショップを開催することにしました。当時の私は演劇への情熱がますます高まっていましたから、ワークショップに参加することにしました。ワークショップの目的はプロの俳優を育成することではなく、参加者一人一人が演劇を通して、自分を表現する方法を見つけることにありました。私が19才で高校を卒業した時、ロベルトは私にラ・バラッカに参加したいかどうか尋ねました。私はラ・バラッカを知ってはいましたが、自分が子ども向けの劇団で働きたいと明確に意識できていたわけではありません。ただ、演劇全般に情熱を持っていたので、「はい」と答えたんです。
そして、ラ・バラッカに参画した1999年以来、私は主に1才から6才までの子ども向けに演劇をつくってきました。私のアプローチは職人的と言えるかもしれません。演劇専門の学校に通ったことはなくて、すべてワークショップで学んだんです。1才以上の子ども向けの演劇もそうやってつくり始めました。実際に子どもたちの前で演じ、彼らの反応を注意深く見聞きすることから、子どもたちについて学びました。その後、劇団のさまざまなプロジェクトを通して、プログラム・ディレクターとしての仕事も始めました。シーズンを通しての公演内容を私が決めるようになってから、7年ほど経ちます。私がどうやって俳優になり、ラ・バラッカにたどり着いたのか。それに答えるならば、おそらく運命のおかげとしか言いようがありません。私は偶然に、今のキャリアを始めたんです。