「アートは、見る人々に対してさまざまな感情や考えを誘発する」~劇団ラ・バラッカ➄~


「子どもたちにとってなぜ演劇が必要なのか。それは、彼、彼女たちが大好きなのが『物語』だから」〜劇団ラ・バラッカ④〜

「子どもたちを相手に仕事をしたいのなら、まず、子どもたちに注意深く耳を傾ける」~劇団ラ・バラッカ⑥~
1976年にイタリア・ボローニャ市で創設された子ども劇団「La Baracca」(ラ・バラッカ)。市内の保育園や学校と連携しながら、子どもたちの感性を育む、芸術性の高い舞台作品を作り続けています。
イタリア・ジャパン・キッズシアターでは、童話「美女と野獣」をベースに創作された『La Bella o La Besita (美女か野獣か)』の撮りおろし映像(日本語ナレーショ付き)を日本で初めて上映しました。上映後は、オンラインでボローニャの劇場と会場とを繋ぎ、出演したファビオ・ガランティさん、ジャーダ・チッコリーニさんへの質疑応答を行いました。
二人は、本公演の前日に開催されたオンラインによる演劇ワークショップでも、ファシリテーションを務めました。子どもたちは、ワークショップを通じて、自分の身体を使って様々なモノや生き物を表現すること、また自由に絵を描く体験をしました。
出演いただいたお二人にお話を伺いました。
― 今回のイタリア・ジャパン・キッズシアターでは、お二人の来日が叶わず、オンラインでのワークショップや、日本語ナレーションを付けた作品の事前収録など、通常とはだいぶ違う方法での開催となりました。オンラインで演劇を提供してみて、いかがでしたか?
ファビオ(F) コロナの流行という異例な時代における、異例な方法でのパフォーマンスになりました。
ジャーダ(G) 日本に行けないことが決定し、上映する作品を事前に収録しなければならなくなった時は、本当に心配でした。まず、コロナ禍で公演活動の自粛がつづいていたため、「美女か野獣か」を最後に演じてからだいぶ時間が経っていました。こんなに長い間、子どもたちに会わないことはありませんでした。この舞台は2017年に作られたんですが、制作から数年後に公演を行うとき、私はいつも「この演目は今もうまくいくのか?」と考えます。また、普段だと演じるときはいつも子どもたちが目の前にいますが、今回の収録では、誰もいない部屋の中で、ただカメラを前にした演技でした。
F 観客がいれば、彼らの目を見ることができます。僕たちは演技している最中にいつも、観客に対して目で問いかけ、目で答えをもらっています。今回は、その懸け橋となる目がありませんでした。
通信技術はある種の橋渡しとなることができるかもしれませんが、生の演劇空間とは全く違いますからね。
G 収録した部屋は、本当にからっぽに感じました。私たちはまた、言葉についても心配していました。この作品では、演技に合わせてナレーションが入ります。今回はそれがイタリア語でも、英語でもなく、日本語を聞きながらの演技だったので、自分たちが行うインスタレーションやアーティスティックなパフォーマンスのタイミングが、きちんと適切にできているのかどうかが心配でした。
F ナレーションをしてくれた八木原容子さんの話す日本語は、我々にとって、とても興味深いものでした。彼女の声に聴き入ってしまって、演技するのを忘れてしまうところでした!(笑)

G 「美女か野獣か」をオンラインで上映する上で、さまざまな不安がありました。ですが、上映の前日に行われたオンラインのワークショップで、すべての不安が打ち消されました。日伊櫻の会の皆さんの存在のおかげだと思います。共にオンラインワークショップを運営する中で、スタッフの温かさを感じることができました。ビデオ通話とモニターは、私たちを分かつものではなく、私たちを繋ぐものなんだと感じることができたんです。スタッフの皆さんにとても親しみを感じましたし、リラックスしてワークショップを提供できたと思います。時差もあって、深夜のワークショップでしたが、通訳の並河咲耶さんの他、たくさんの仲間といっしょに夜通し仕事をするのは、とてもおもしろい経験でした。皆さんと共に過ごした二晩は、とても楽しかったですね。

F そうですね。その二晩は気分よく酔い続けているように感じましたよ。それまで、まるで自分が演劇の失われた時代にいるように感じていました。拠って立つところを失い、水の上に立っているように感じる日々だったのです。しかし、この体験を通して、演劇は可能なのだと確固たる感覚を取り戻せたように思います。今はその感覚を足場に、飛び跳ねられると感じています。
G その通りですね!すべての都市、すべての大陸の人々が、劇場を必要としています。他の大陸の人々と繋がることは、いつだって、とても美しい体験なんです。コロナ以前は、世界各地に行って公演していましたが、この2年はそれができていません。でも、人々の劇場への関心が、いまも息づいていることこそが重要だと思います。
― そうですね。お二人の来日が難しくなり、運営側の私たちも不安が募っていましたが、オンラインで実施したことで、前向きな取り組みにできたと思います。リアルでの舞台体験にはならなかったとしても、困難な時代の中でも、遠くの人々と繋がることができたという経験は、子どもたちにとって印象深いものになったと思います。ではここで、今回上映した「美女か野獣か」について伺います。どのようなテーマに、この舞台を作られたのでしょうか?
G 美しさについて語りたかったんです。この作品では、子どもたちも知っている「美女と野獣」のストーリーを使いながら、美しさとは何か?ということを、見る一人一人に考えてもらいたいと考えました。
誰かにとって美しいものは、他の人にとっても美しいとは限りません。そんな話を私たちの芸術コンサルタント、セシリア・ポリドーリとしていたんです。セシリアは、芸術の美しさとはなにかという論文を書いて、芸術理論の学位を取得していました。今回の舞台では、さまざまな場面が、有名なアーティストの作品を引用するように作られています。これらのシーンは、セシリアと相談しながら考案しました。グスタフ・クリムト、ジュゼッペ・アルチンボルド、ジョルジュ・マチュー、カラヴァッジョ、ルチオ・フォンタナなどのアート作品が、さまざまな場面で引用されています。具体例をあげましょう。天井から吊るされたベールに見立てた透明ビニールシートに、バラの花を投げつけて、切り裂くパフォーマンスシーンがあります。これは、ルチオ・フォンタナの作品を引用したものなんです。ルチオ・フォンタナは、キャンバスを大胆にカットした作品で有名なイタリアの現代アーティストですが、このスタイルからインスパイアされています。
F 繊細さと衝動もテーマのひとつです。小さな子どもたちが絵を描いているのを見ていると、ある部分は細心の注意を払って繊細に正確に描こうとしているけど、別の部分では力任せに衝動的にぐちゃぐちゃに描いたりしますよね。それってまさに、現代アートだと思うんです。なぜなら、アートとは時に残忍で、挑発的でもあり、見るものに考えることを要求し、または嫌悪感すら与える場合があります。アートとは、美しさを示すだけのものではありません。アートとは、見る人々に対してさまざまな感情や考えを誘発する、そうした働きかける力を持つものなんだと思います。

― 上映後の質疑応答では、確かにさまざまな意見が子どもたちから寄せられていましたね。ある意味で、「美女か野獣か」のアート作品としての試みが、成功したと言えるのではないかとも思います。ラ・バラッカのプロデューサーであるアントネッラと、どの演目にするか相談していた時、観客となる子ども達の年齢層について何度も確認されました。年代によって何を変えているのでしょうか?
G まず、公演時間の長さが違います。 0~3歳の場合は30~35分くらいになります。そして、光の使い方も違います。とても小さな子どもたちが相手の時は、舞台を明るくしなければいけません。今回の「美女か野獣か」で使ったような暗闇は、怖がらせてしまいますからね。子どもたちにとって、生まれて初めての演劇体験になるわけですから、可能な限り最善な体験をしてもらえるよう勤めなければいけません。
また、幼児を対象とした演目ではリズムが非常に重要となります。物語の展開のアップダウンのリズムが、一定であることが望ましいです。ランダムなリズムや、常にダウンしているような静かなリズムには、子どもたちは簡単に集中力を失ってしまいます。
F 3~6歳になると、光や闇のコントラスト、音を実験し始めることができます。8~10歳になると、主題のある舞台作品も鑑賞することが可能になります。たいていの言葉は理解できますし、時間も45分は大丈夫で、公演後には質疑応答も活発にできます。今回の「美女か野獣か」も、これに分類されます。「美しいとは何か?」という主題を持ち、暗闇を効果的に使った演出も多く出てきますからね。
ですので、どのような年齢の子どもたちが観客かという情報を知ることはとても重要になります。一般的に私たちは、地域の保育園、小学校の先生たちとしっかり議論した上で公演内容を決めるんです。その際、まず私たちのアイデアを共有するんですが、先生たちが学校で取り組もうとしていることもよく聞きます。先生方の意見を演劇のアイデアに取り入れることも良くありますよ。

「子どもたちにとってなぜ演劇が必要なのか。それは、彼、彼女たちが大好きなのが『物語』だから」〜劇団ラ・バラッカ④〜

「子どもたちを相手に仕事をしたいのなら、まず、子どもたちに注意深く耳を傾ける」~劇団ラ・バラッカ⑥~