「デザインとは、生活様式を変えるものであり、世界の見方を変えるもの。」〜出版社コライーニ社③〜
ロンバルディア州マントヴァに本社を置くコライーニ社は、デザインと教育をつなぐ役割を果たしてきました。世界が新しい解決策を必要としているときに、デザインの役割はどんなことなのか、ピエトロ・コライーニ氏に話を聞きます。
ー1960年代のデザインと現在のデザインはどう違うと思いますか?
当時、私たちイタリア人は、第二次世界大戦から抜け出し、国を再建している真っ最中で、何もかもが新しく作られているところでした。古い世界は文字通り死んだと言えるような状況だったのです。新しい世界をデザインしなければならなかったのです。そんな中、ミラノにはデザイナーが集中しており、人々は新しいものを作り出すことに夢中でした。歴史的なタイミングと、才能の地理的集中という2つの条件が同時に揃ったことが、イタリアにおけるデザインの爆発的な発展を可能にしたと思います。デザインとは、生活様式を変えるものであり、世界の見方を変えるもの。エンツォ・マリや、ブルーノ・ムナーリのような偉大なデザイナーにとって、デザインとはそうしたことを意味していました。当時の雑誌を読んでいると、まるで今書かれているような気分になれるんです。すごいことですよね。
ープレイ・トゥ・ラーン の中で、ブルーノ・ムナーリが現在のデジタル技術を使って子ども向けのゲームを作ったら、どんなものになるかと問いかける部分がありますね。おもちゃの現代的な役割についてどう思いますか?
とても難しい質問ですね。エンツォ・マリやブルーノ・ムナーリは、遊ぶだけでなく、学ぶために遊ぶおもちゃをデザインしました。しかし、何を学ばなければならないのかを子供達に教える必要はありません。彼ら偉大なデザイナーが作ったおもちゃには、説明書は必要ないんです。
今年、私たちは マテオ・ログリオと共に 『メニー・インテリジェンス(Many Intelligence)』 という本を出版しました。 ログリオはロンドンに住む若いデザイナーであり起業家です。彼と彼の仲間は、プリモトイズという子どもたちがプログラミングを学ぶための知育玩具を開発しました。彼らが有名になるずっと前、ミラノにある私たちのスペースでそのプロトタイプを発表したのですが、とても面白かったです。プリモトイズは、さいころのような形をした木製のロボットで、ブロックをつかってプログラミングするものです。デジタルとフィジカルの間、想像力と論理の境界を、非常にシンプルなユーザーインターフェイスで媒介したすばらしいおもちゃだと思います。
おもちゃの現代的な役割が、今後どうなっていくか予測することは難しいですが、私の三人の娘たちが遊ぶおもちゃは、私がかつて使っていたものよりも、優れたデザインだと言えるでしょう。
ー最後に、コライーニ社の将来ビジョンを教えてください。
将来に向けて、引き続きアーティストと一緒にコンテンツを作っていくと思います。そのコンテンツがどんな形で人々に手渡されるかは、それぞれの文脈において、もっとも効果的と思われる方法を選んでいきます。それは、本かもしれませんし、プレイ・トゥ・ラーンのようなウェブサイトかもしれませんし、展覧会かもしれません。コンテンツの作成方法も、新しい方法を学ぶ必要があると思っています。
ーいつか日本でお会いしたいですね。日本へいらしたことがありますか?
15 年前に、ボローニャ・ブックフェアに関するワークショップのために日本に行きました。たった一度の訪問ですが、日本がとても好きになりましたよ。私たちの作る本が、他の国よりも日本でより知られているのは、イタリア人と日本人の間に似た感性があるからだと思います。私たちは、優れた職人と仕事をするのが大好きで、よく作られた質の高いものが大好きですよね。よいものを作る、そのことを愛していると感じます。
ーその通りですね!よいものを作ることへの愛は、東アジアの国々が共有していると思うので、いつか東アジアを巡るツアーを一緒に計画したいですね。残念なことですが、いま日本とこれらの近隣諸国の関係はあまり友好的とは言えない状況です。それぞれの国に住む人々が相互に尊重し合い、お互いを知るために、文化の力を活かせたらと思います。本日はインタビューありがとうございました。
きっと、そうなりますよ! 教えている学生たちによく言うんです。このパンデミックが終わったら、すべてを新たにデザインする必要があるよ、と。世界は新しい解決策を必要としています。デザイナーになるにはとてもよい時代です。毎年毎年、新入生を迎えて思うんですが、私たちの未来は、素晴らしいデザイナーたちの手に委ねられていると思います!(終わり)