「教育の目的とは、人々に自由であることを気付かせること」〜出版社コライーニ社②〜


「Da cosa nasce cosa(モノからモノがうまれる)」〜出版社コライーニ社①〜

「デザインとは、生活様式を変えるものであり、世界の見方を変えるもの。」〜出版社コライーニ社③〜
数々の絵本やおもちゃを創作したことで知られる出版社コライーニ社は、デザインと教育をつなぐプロジェクトを展開してきました。特に、1960年代のイタリアを考えることが、「教育の目的とは、知識を増やすことではなく、人々に自由であることを気付かせること」という教育についての示唆を与えてくれます。引き続き、ピエトロ・コライーニ氏に話を聞きます。
ー1960年代のイタリアのデザインと教育について考えることが今日的に重要だと思うのはなぜですか?
2020年3月、Covid-19 の第一波がイタリアを襲った際、最初のロックダウンが実施され、学校も同時に閉鎖されました。その時、パンデミック後の学校がどうあるべきか、2021年以降の教育について様々な議論が行われていました。そういった議論にも耳を傾けながら、私たちは、1960年代に、教育において革命を起こすために教育者やデザイナーが何を考えていたのかを調べ始めました。
プレイ・トゥ・ラーンは5つのエピソードを中心に構成されています。第1話は、マリオ・ロディ、ドン・ミラニ、アルベルト・マンツィ、ジャンニ・ロダーリら、当時のイタリアの学校制度を変えようとした人物について取り上げています。第2話は、ムナーリやリッカルド・ダリージなど当時のデザイナーたちが、デザインを変えようとして、制作されるプロセスや流通する仕組み、デザインの意味について交わした議論を紹介しています。第3話は、イタリアの子どもたちのために仕事をしたデザイナーたちに捧げられています。彼らはデザインを、商品を作るためだけのツールではなく、社会を創造する方法として考えていました。彼らにとって、デザインは人の取り巻くもの、世界そのものを変える方法でした。エンツォ・マリは自分が携わっていることは新しい世界を構築することであり、自分が好きな世界を投影したり、販売したりすることではないと考えていました。第4話は、アメリカとヨーロッパのデザインと子どもたちに関するものです。レゴが誕生した背景や、チャールズ &レイ・イームズなどアメリカのデザイナーたちの活動とそのヨーロッパへの影響について議論します。最後となる第5話は、同時代を生き、教育とデザイン、それぞれの世界で革命を起こした、ロダーリとムナーリ、2人の素晴らしいコラボレーションとその結果生まれた多くの作品がテーマになっています。

イタリアには、19世紀末のレッジョ・エミリアのレッジョ・チルドレン、20世紀初頭のモンテッソーリなど、教育システムを革新してきた伝統があります。彼らが試みたのは、人々が単一の視点だけでなく、多くの視点を持つことができる新しい社会をつくることでした。教育方法の革新にはさまざまな人が関わっていましたが、彼らの多くは教師とデザイナーたちでした。そして彼らは、子どもにとってより大切なのは、知識を得ることそのものではなく、知識を獲得するプロセスにこそあると発見しました。
その際、ジャンニ・ロダーリのアイデアの核とは、想像力に自由を与えることでした。彼にとってデザインとは、想像力に自由を与えるために必要なひとつの要素だったんです。ロダーリは、想像力と歴史が、必ずしも伝統に沿ったものである必要がないことを述べ、想像力に大きなオープンエリアを作り出したんです。彼の著書『ファンタジーの文法―物語創作法入門』には、想像力をつかって、日常的な事柄から物語を生み出せる方法が書かれています。物語を作るために、非日常性を探し出す必要はないと述べているのです。
私たちが取り組んだプレイ・トゥ・ラーンのプロジェクトは、次に引用するロダーリとムナーリの言葉から強く影響を受けて作られました。ロダーリは『ファンタジーの文法―物語創作法入門』の中で次のように言っています。「『言葉は誰もが使うためのもの』という民主的な考え方は、私の座右の銘でもあります。誰もが詩人やアーティストだという意味ではなく、誰もが奴隷ではないことを意味する考え方だからです。」また、ムナーリは次のように言っています。「空がいつも同じ青ではないことに気付いた子どもは、将来直面する問題に対して、より創造的な解決策を見つけることができるでしょうし、苦しむことよりも対話する意志を持つでしょう。」
ロダーリとムナーリは、教育の目的とは、知識を増やすことではなく、人々に自由であることを気付かせることだと考えていたのです。
ー引用されたロダーリの言葉は、現代においても重要性のある言葉だと思います。
ロダーリがそう言ってから、もう 40 年も経っています! ですから、現代的であってはならないはずなのです…。しかしながら、残念なことに、おっしゃる通りかもしれませんね。彼の夢見た民主的な社会は、未だ実現されていないのかもしれません。

「Da cosa nasce cosa(モノからモノがうまれる)」〜出版社コライーニ社①〜

「デザインとは、生活様式を変えるものであり、世界の見方を変えるもの。」〜出版社コライーニ社③〜