「Da cosa nasce cosa(モノからモノがうまれる)」〜出版社コライーニ社①〜
ロンバルディア州マントヴァに本社を置くコライーニ社(Corraini Edizioni)は、イタリアを代表する著名なデザイナーであるブルーノ・ムナーリと、数々の絵本やおもちゃを創作したことで知られる出版社です。その老舗の出版社であるコライーニ社が、2020年「Play to Learn, when Education meets design」(以下、プレイ・トゥ・ラーン)という新しいウェブサイトを作りました。1960年代のイタリアの教育とデザインをテーマにしたものです。プロジェクトの背景をプロデューサーを務めたピエトロ・コライーニ氏に伺いました。
取材・文 多田 亮彦
ーコライーニさん、ご自身について教えていただけますか?
私は両親が コライーニ社を始めたマントヴァという町で生まれました。幼い頃から、美術と本に夢中で、そういう環境で育ったことが私自身に大きな影響を与えたと思います。現在、私は コライーニ社で働きながら、自分自身のグラフィックデザイン会社も持っています。
ーコライーニ社はマントヴァという小さな町に本社を置いていますが、作品は世界的に有名で、ローカルであると同時にとてもグローバルな活動をしているように思います。御社について教えていただけますか?
コライーニ社は30人のスタッフを擁し、イタリアに 4か所の拠点を置いています。マントヴァ、ミラノ、ボローニャ、ローマです。それぞれの場所にギャラリー、書店、ワークスペースがあります。マントヴァでアートギャラリーとしてスタートした私たちにとって、出版作業をする仕事場にギャラリーを併設することは自然なことです。ギャラリーがあることで、アーティストに自分たちの作品を紹介する機会を提供することができたり、また、私たちにとってもこれから活躍する若いアーティストと実験的なことに挑戦できたりするなど、とても大切な場所です。ギャラリーでは、展示会のほか、パフォーマンスやコンサートなど様々なことが行われます。私たちのギャラリーは、そこに集まる人々がアーティストとおしゃべりができるような開かれた場所なんです。ムナーリも言っていますよね、「Da cosa nasce cosa(モノからモノがうまれる)」。ギャラリーで行われるコトから、新しいコトが生まれるんです。
ー会社でのあなたの役割は何ですか?
私はアートディレクターとしても働いていまが、両親と三人で、3つの頭脳を持つ社長 のようにも働いていますね。私は新しい世紀に向けて会社を準備しています。
ーコライーニ社の作品は、展示会や書籍、企業やNPOなどとのプロジェクトにまで及びます。 ロンドン・イタリア文化会館との最新プロジェクトはそのような試みだったと思います。 プレイ・トゥ・ラーンがどのように始まったか教えていただけますか?
私たちにとって、プレイ・トゥ・ラーンは、出版社がどのように進化できるかを示すよい例となってくれました。
プレイ・トゥ・ラーンはロンドン・イタリア文化会館から2020年4月にデザインに関する何らかのプロジェクトを提案するように依頼されたことから始まっています。
2020年はイタリアの児童文学の巨匠である作家ジャンニ・ロダーリ生誕百周年となった年で、彼を記念してイタリア国内では様々なプロジェクトが行われていました。私たちは、ロダーリの初期作品のすべてのデザインに、ブルーノ・ムナーリが関わっていたことに注目して、ムナーリがロダーリのために作成したスケッチやドローイングを集めたカタログを作ることにしたんです。それが2020年10月に発売された『ロダーリのためのムナーリ』(Munari Per Rodari )という本です。
二人が一緒に仕事をした当時は、ムナーリの絵はいわゆる子供向けのイラストとは大きく違っていて、クラシカルなイラストとも一味違いました。現代でも、彼のイラストは独特ですよね。発明だとおもいます。
ロンドン・イタリア文化会館から依頼されたとき、私たちはこの本を編集しているところでしたから、この本を起点に考えることにしました。でも、私たちは単に本のデジタル版を作成することはしたくないと思いました。それで、『ロダーリのためのムナーリ』という本の背景となる時代に焦点を当てることにしたんです。1960年代のイタリアは、アートとデザイン、そしてイタリアの教育システムにおいて実験的な取り組みが爆発的に起こった時期です。その当時、デザインシステムの革命、教育システムの革命が必要だと多くの人々が考えたのです。新しい教育のあり方をデザインする、社会を変えるという考え方は、ムナーリやエンツォ・マリ、リッカルド・ダリージのような人物が共有していたテーマだと思います。
私たちはこのウェブサイトのプロジェクトを、いわば編集プロジェクトと考えました。私たちの信頼する5人の作家に掲載するコンテンツの監修を依頼しました。また、ブルーノの息子であるアルベルト・ムナーリに父親の作品を通してデザインと子どもの関係について語ってもらいました。更に、パルマのヴァルセレナ修道院に展示されている20世紀のイタリアのデザインに関する素晴らしいアーカイブ(パルマ大学所蔵)も映像にまとめました。すごく価値のあるアーカイブですから、あなたもいつか行くべきですよ!こうして得られた写真、テキスト、映像、そして音声をコンテンツとしてウェブ サイトを作ったんです。 ウェブサイトは2020年 12 月に公開されました。これを制作するチャンスを与えてくれたロンドン・イタリア文化会館に感謝しています。